第5回 屋台や食堂に挑戦してみよう

 屋台や食堂はとにかくコストパフォーマンスがいいのでおすすめだ。しかも、最近はバリエーションに富んでいるし、衛生面もかなり向上している。名店もたくさんあって、タイ料理を楽しむには最高のシチュエーションだ。

 とはいえ、「タイランド・エリート」のメンバーの中にはなかなか一歩を踏み出せない人もいるかもしれない。屋台は意外とハードルが高く、観光客や企業の出張者などの中には横目に見つつ、行きたいけれど行けないという人は多い。やはり「汚いのではないか」とかいろいろ考えるようだ。

 しかし、タイ人だって汚い店は嫌いだ。そういった危ない店は今はほとんどなくなった。30年くらい前は集団食中毒なども聞いたが、少なくともボクがタイに通うようになった20年前から見ても、そういった事件は耳にしていない。連載最後の回は、そんな屋台や食堂について見ていくことにしよう。

専門系が多いタイの屋台

 屋台は荷車や移動式厨房で、不定あるいは定位置で営業している。特にバンコクは法令が厳しく、屋台とはいえ許可制になっている。つまり、変な店は基本的には営業できない。なにかあった場合に責任の所在が明確ということだ。ただ、荷車の屋台は移動しながら販売するので、場合によっては無許可のケースもあり、警察の姿を見ると逃げ出すこともある。

一般日本人が屋台に関して気にするのは、やはり衛生面でしょう。これはあまり知られていないが、タイは衛生基準の関連法規は日本と同等、あるいはそれ以上に厳しい。従業員の手の洗い方や食品、食器の扱い方など、事細かに決められている。たとえば、食器を洗う際には洗剤のたらい、すすぎのたらいなどいくつも用意して管理しなければならないと定められている。

ただ、実際にそれが店側で遵守されているかどうかとなると、正直怪しいことはあろう。でも、それは日本においてだって同じ懸念はあるわけだし、それなら屋台であろうが高級レストランであろうが結局は同じことではないか。どうしても日本とは違うわけなので、タイ人の衛生観念が日本人とは違うことも否めないわけだ。

逆に言えば、そうであるなら結局のところ、どこで食べようが衛生的な部分はそう変わらない。それに、タイ人も汚い店が平気なわけではない。女性にはきれい好きが多いくらいなので、変な店に行くことはまずない。初めての屋台ではタイ人も疑ってかかるようで、スプーンやフォーク、取り皿などの食器はテーブルにあるティッシュで食べる前に拭く。最近はだいぶきれいになったので、そうする人も減っている印象。20年くらい前は席について注文が終わったら、料理を待つ間せっせと食器を拭いていたものである。

食材も高級店とは違うので、たまに悪いこともある。特に海鮮は気をつけたい。もし口にして変だと自分が感じたら、迷わずに吐き出すべきだ。日本のように「大丈夫だろう」という判断はしないようにしたい。

そんな屋台も近年は規模が大きくなってきて、常設屋台は食堂との違いが定義的に説明できないこともあったり、また若い人はワゴン車などを改装して移動式店舗にしていることもある。特にバンコクは新しく立ち上がったナイトマーケットなどの近辺でそういったニュータイプの屋台が散見される。ただし、そういう新しい屋台はタイ料理というよりはケバブやハンバーガー、カクテルのバーといった洋風になっていることがほとんど。

 タイ屋台の魅力は、基本、専門店の形式になっていることだろう。麺類の店は麺類だけ、鶏のご飯「カオマンガイ」ならカオマンガイだけ。それから豚足ご飯の「カオカームー」、揚げもの、ドリンクなど、なにかに特化した店が多い。

 屋台は店舗維持にそれほど費用がかかっていないので、その分料金設定は低め。安くタイ料理を食べるには最も適している。

食堂の魅力とは

 食堂は主にタウンハウスと呼ばれるタイ式長屋に入居しているケースが多い。屋台とさほど変わらない料金設定で、移動式ではなく店舗になっているかどうかの違いか。

 食堂は屋台とほぼ同じものを売っているが、揚げものや串焼きなどのおやつ代わりに食べられるような料理を専門にはあまり扱っていない。ご飯ものや麺類、「タームサング」などが中心になる。

この「タームサング」という形式はタイらしくていい。直訳すると「注文に従う」という意味で、店先にある食材を見る、あるいはメニューを見て好きなものを注文する、いわばごく普通のタイ料理店だ。メニューになくても食材があれば自在に頼むこともできるし、味つけをアレンジして指示することができる。ガパオライスもタームサングで注文するとできたてでおいしい。タイではガパオライスは「なにを食べたいか思いつかないときに食べる料理」と言われるほど、誰でも好む料理でもある。

屋台同様、食堂も内装などにそれほど金を遣っていないので、座席はプラスチックの椅子であったりする。結構足が弱く、成人男性は自重で突如椅子が崩壊することがあるので注意したい。とはいえ、食堂の調理台などはカスタムメイドがほとんどで、オーナーや調理師の好みが強く反映されている。つまり、食堂といえども素人が「ちょっとやってみるか」でできるようなビジネスではない。星の数ほどある屋台と食堂は常に新陳代謝されているので、だめな店はどんどん淘汰されていく。だから、バンコクの屋台は食堂は基本、問題ない店が多い。

いい屋台・食堂の見分け方はこれ

 安心して食べられる屋台や食堂はどう見分けるといいだろうか。ボクの経験からすると、下記の条件に当てはまる数が多いほど問題ない気がする。

・店内や周辺が臭くない

・床や地面が油でぬるぬるしていない

・テーブルや椅子が汚くない、古くない、壊れていない

・客が多い

・固定客がいる

・店主や店員が笑顔

 周辺が臭かったり、油汚れでぬるぬるしているということは、法令が定める衛生面をしっかり守っていないことを意味する。だから、そこはやめた方がいい。テーブルなどが汚れているのもそうだし、古い、壊れているということは設備にケチケチしているので、そうなると食材の選び方も疑わしいし、食器の洗い方も怪しいものである。

 タイ人もいい店で食べたいわけなので、客が多い店はいい。ただ、流動客しか来ないような店は要注意だ。空港やバスターミナル周辺、高速道路のサービスエリアなどは固定客がいないので、ひどい料理を出しても店主は全然平気な顔をしている。だから、こういう店も注意。

 それから、店主や店員が優しい店がいい。日本のような頑固おやじの店はタイではまずありえない。笑顔で接客できるような店でなければ話にならない。

 ここまで読んでもまだ屋台に行く勇気がない、あるいは行きたいけどどうだろうか、という人は、商業施設に必ず入っているフードコートをおすすめする。先払いでチケットを購入する、あるいはプリペイドカードを受け取る方式と、退出時に清算する方式のところがある。どちらかというと、後者は高級系に多い。前者は余った分は返金できるのでご安心を。

クーポン食堂あるいはフードコートなら、あらゆるタイ料理があり、しかも屋台や食堂の雰囲気を同時に味わえる。衛生面も問題ない。値段は食堂などよりやや高いかレストラン並みの場合もある。場所はデパートやスーパーのほか、ビジネス街の通り沿い、大学構内やタイの公官庁施設内、市場などにある。こういったところで、屋台を疑似体験するといい。

 タイ料理はタイ国内ではとにかく魅力あるジャンルだ。苦手な人もいるかもしれないが、まず現地で少し試してもらいたい。食材はすべて本来タイ料理を作るために育てられたものばかり。タイ国外で食べるタイ料理とはまったく違うのだから。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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