第4回「タイ伝統医学はこんなにもおもしろい」

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 タイにおける医療シーンの中心は西洋医学になる。一方で、タイには大昔からある治療も存在する。それは「タイ伝統医学」だ。せっかくタイに移住するのであれば、タイで本場のタイ伝統医学を体験してもいいかもしれない。

 とはいっても、すでにタイ伝統医学を受けたことがある人も少なくない。「タイランド・エリート」の取得あるいは検討している方で、まるっきりタイを知らない、タイに行ったことがないという人は稀だと思う。ある程度タイを知っているというのであれば、おそらくなんらかしらのタイ伝統医学に接していることは間違いない。

みんなが好きな「アレ」もタイ伝統医学

 タイ伝統医学は、インドのアーユルヴェーダ、中国伝統医学の中医の影響を受けている医学だ。実に2500年もの歴史があるとされる。いわゆる東洋医学のひとつで、タイ伝統医学でも人間の身体や健康は土、水、風、火の4つの要素で成り立っていると考えている。つまり、いずれかの過不足があることで健康が害されるというわけだ。

 冒頭に書いたように、タイランド・エリートを考えている人はすでにタイ伝統医学に触れている可能性が高い。タイに来るとそこかしこで見かけるタイ古式マッサージ店。このマッサージもまた、タイ伝統医学のひとつだからだ。きっと施術を受けたことがある人は少なくないでしょう。

 人間の身体は「セン」というもので繋がっていて、それらを刺激することで先の4つの要素のバランスを保つことができる。これがタイ古式マッサージの考え方で、ただ揉んでいるだけではない。タイ国内における古式マッサージのマッサージ師はそれを学ぶため、必ずバンコクの涅槃像で有名な寺院ワット・ポーにあるマッサージ学校を修了していなければならない。実はワット・ポーはバンコクに都が移されてからの早い時期に、タイ国内の様々な学問を集めた場所であり、タイ最初の大学とも言われている。そのうちの特にマッサージ校は有名で、タイで古式マッサージ師として働くには、今も寺院内や認定校で学ばなければならない。

 ただ、日本のマッサージ師もそうだが、必ずしも完全に伝統医学のことを理解しているとは限らないし、お互い人間同士なので相性もある。だから、いいマッサージ師に出会えばいいのだが、ひどい人に会ってしまうこともあるので、そこは運命だと思うしかない。

 あくまでも人によって見解は違うが、ボクが見聞きした情報では、バンコクにはかつて3人の「神の手」がいた。ひとりはスクムビット界隈、もうひとりは失念。最後のひとりはかつて安宿街で有名だったカオサン通りにいた。カオサン通りのマッサージ師は実はボクの知り合いで、ゲストハウスを経営しながら階下でマッサージをしていた。神の手とはいえ1時間100バーツ(当時)と相場より安い。実際見ていると、どこそこの大学教授だとか有名人もわざわざ来る。ただ、この人はその後南部にあるサムイ島に移住してしまったので、今はバンコクにはいない。

 こういったゴッドハンドを探し求めて古式マッサージ巡りをするのもおもしろいかもしれない。ほかにもバンコクなら新しくできた店や大型店などは料金は高いものの、部屋がきれいでサービスの質もいいので、女性はちょっとしたスパ感覚で行ける。

薬草学に使われる薬草に触れた日本人は少なくない

 タイ伝統医学の中には薬草学もある。タイでは薬草を「サムンプライ」と呼ぶ。日本の漢方薬は中医に倣ってできたものだが、実は日本独特のものだ。中医における漢方の原料になる生薬はそれこそ植物から鉱物まであって、この薬草だけだとある効果があるが、別の薬草を混ぜるとその効果が消えて別の効果が生まれる、など非常に複雑である。タイの薬草学はそこまで複雑ではない。実際、タイ伝統医学の薬剤師に話を聞くと、中国における生薬は12800種類はある一方、タイの薬草学においては500種程度の薬草しかない。

 サムンプライを普通に経口薬としたりお茶などで飲むということはバンコクでは稀かもしれない。バンコクの中華街ヤワラーにタイ最古の漢方薬店がある。「福安堂」という店で、ここは中国漢方薬だけでなく、タイの薬草学の医師も常駐してタイ式漢方薬を売っている。とはいえ、常備薬として服用したりするのはバンコクではタイ人でも少ないかもしれない。

そんなタイの薬草もまた、すでに知らずに触れている日本人も少なくない。たぶん女性に多いかもしれない。先のタイ古式マッサージでも使用されるし、美容スパでも多用される。香草を包んだ麻の布の玉でマッサージをするハーバルボール、それからオイルマッサージのオイルに浸す薬草がそれだ。

 バンコクでは少ないかもしれないが、北部などの田舎に行くと薬草サウナも見かける。寺院や民間の施設、あるいは一軒家などの自宅でできるもので、鍋などで複数の薬草を茹で、その蒸気をサウナ室に取り込むというシンプルな設備だ。自宅でやる場合は布のテントなどに取り込むなどしている。薬草の蒸気が身体にまとわりつくだけでなく、鼻や口からも吸うので、西洋式のサウナとは違って、妙に元気になった気がしてくる。

サムンプライも口にしている可能性大

 前項では薬草を経口薬として経験することは稀としたが、一方でタイにいるほぼすべての人が常に薬草を口にしている。タイ伝統医学には中医にある医食同源という考え方がないので、タイ人自身もあまり意識はしていないかもしれない。しかし、先に紹介したタイの薬草「サムンプライ」は、日本語では別に「香草」という訳もある。

 そう、タイ料理に使われる香草類もまたサムンプライなので、ある意味では常日頃、タイでは薬草を口にしていることになる。サムンプライでわかりやすいところを挙げると、近年日本でも人気のタイ料理、ガパオライスに使われるバジルの葉がそうだ。

トムヤムクンのトムヤムスープの出汁はコブミカンの葉、レモングラス、カー(ショウガの一種)などが使われ、これらもすべてサムンプライになる。20年以上も前はタイ人の死因にガンが少なかった。これを研究した日本の大学チームが出した結論は、トムヤムクンに使われるサムンプライを日常的に食しているから、という話も実際にあったほどだ。

 これまでの連載の内容は西洋医学が中心だったが、このようにタイ国内ではタイ伝統医学が生活に根ざしている。こういったことを意識するだけでもタイ料理やタイ古式マッサージ、美容スパを利用する楽しみや意味合いが違ってくるでしょう。

 ほかにも、タイではタイ政府が2000年にタイ国内での医師免許を承認したことで増えつつある中国伝統医学も受けられる。漢方薬はもちろん、鍼灸もあって、実に様々な治療を受けることが可能だ。西洋医学のような病原を駆逐する考え方に賛同できない人などは、こういった自然に従った治療を進めるタイ伝統医学や中医も視野に入れるといいかもしれない。

 日本人には日本人コーディネーターがベストではあるが、稀に適切な免許を持っていなかったり、つまり違法操業の場合もあるので注意は必要。しっかりと連絡を取り合い、認可をタイ政府から受けていることが確認できれば、安心していい。タイは医療関係の法令や認可は日本以上に厳しい面もあるので、タイ政府から間違いなく認められていれば安心感が高い。

 タイは外国人の治療ができるくらい医療水準が高いわけなので、移住の際の心配はほかの国よりもしなくていい点は優れている。何度も書いているが、ただしバンコクだけ、というケースもあるので、無計画に移住するのではなく、ある程度自身のスキルと健康面を考慮し、しっかりと近隣病院のレベルを見た上で移住計画を立てるべきだろう。

 日本人には日本人コーディネーターがベストではあるが、稀に適切な免許を持っていなかったり、つまり違法操業の場合もあるので注意は必要。しっかりと連絡を取り合い、認可をタイ政府から受けていることが確認できれば、安心していい。タイは医療関係の法令や認可は日本以上に厳しい面もあるので、タイ政府から間違いなく認められていれば安心感が高い。

 タイは外国人の治療ができるくらい医療水準が高いわけなので、移住の際の心配はほかの国よりもしなくていい点は優れている。何度も書いているが、ただしバンコクだけ、というケースもあるので、無計画に移住するのではなく、ある程度自身のスキルと健康面を考慮し、しっかりと近隣病院のレベルを見た上で移住計画を立てるべきだろう。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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