第4回目 怖いのは言葉ができないこと?

 近年、日本の若い人はあまり海外に興味がないという。日本と比較して外国はどこも治安が悪いという怖さもあるし、ネットなどで世界中の知識や情報を得られるからだ。実際に行って見るのと見ないのでは、経験として得られるものが全然違う。しかし、若者にいわせれば、言葉がわからないから現地に行っても仕方がないという意見もあるようだ。一方では海外に移住をしたい日本人も少なくない。そんな人のすべてが外国語を習得しているのか。答えはノーだ。

タイ語ができることの魅力

 タイはタイ語が公用語だ。そして、そのタイ語は難しい。

 というのは、タイ語の発声には5つの声調があるからだ。カタカナで書けば同じでも、声調――つまりイントネーションなどによってまったく意味が異なる。どんなに急いでいてもその声調でいわないとタイ人には通じない。だからタイ語は難しい。

 とはいえ、タイ語が通じたときの感動は、特に勉強を始めた当初は快感だ。英語は日本国内にもあふれているが、タイ人気の現状でも、さすがにタイ語を日常的に見聞きすることはそうそうない。だから、日本人にはタイ語はほとんど未知の言語であり、それを使って意思疎通を図れたときはうれしいものだ。

 タイ文字も一見難しいようだが、そんなことはない。日本語でいうところの「ひらがな」しかないからだ。あくまでも文字の形状に見慣れていないだけで、学習を始めれば簡単に読み書きはできるようになる。もちろん、その後に語彙力を上げないといけないのだが。

 タイでタイ語ができるということは大きな意味がある。というのは、日本同様、タイ人に英語ができる人が少ないからだ。バンコクや観光地はわりと英語が通じやすいものの、基本的にはタイ人は英語が苦手である。極端にいえばハローすらわからない人が圧倒的に多い。

さらにいい意味でタイ人は自分に自信がある。だから、タイ人は単語が2つ3つわかるだけで「ワタシは英語ができます」と豪語してしまう。そういう人だと話がこじれることもしばしばだ。だから、こちらがタイ語を話せるとコミュニケーションがとりやすくなる。

 また、タイ語ができるとタイ人も喜んでくれて、いろいろなサービスが受けられる。場合によっては生活費が安くなることもあるので、メリットは計り知れない。タイ語ができないとただの外国人扱いだが、タイ語ができれば地域の仲間として受け入れてもらえることもあり、暮らしが楽になる。

 だから、タイで暮らすにあたってはタイ語ができるとかなり有利だ。

言語習得は訓練とセンス

 ボクにいわせると、言葉はツールでありスポーツだ。日本人は受験のための勉強で英語を学習することから、言語を「語学」と受け取りがちではないか。一方で、日本語をどう習得したかを答えられる人も少ない。親や周囲の人が話す声から日本語を耳で憶え、自分の意志を伝えるために使ってきたからだ。

 それはタイ語も英語も同じだ。文法がどうのこうのはあとでいい。自分の思っていることを伝えられればそれでいいではないか。タイでは3歳くらいの子どもがタイ語で話をしている。3歳児にできて、大人の我々ができない方がおかしい。言葉は簡単なのだ。

 言葉はスポーツに似ている。野球も一流選手とリトルリーグのプレーの違いは、たとえ未経験者でもわかる。しかし、実際に一流のプレーをやれといわれてもできない。そこには訓練の蓄積がないからだ。それと同じで、言葉は机上で憶えても使えない。実戦で何度も使うことで身につく。咄嗟の反応もまた訓練があるからこそ素早く返せる。

 ボクはタイ語ができる。タイ語で「鶏」は「ガイ」というが、タイ人がガイといったとき、ボクは頭の中で「ガイ=鶏だな」という処理をしているわけではない。ガイと耳に聞こえたら、ガイを思い浮かべている。鶏と聞こえたら、頭に鶏の姿が思い浮かぶ。どっちも同じ動物が頭に浮かぶのだが、頭の中で翻訳は行われていない。翻訳作業はあくまでもあとで処理される。球技でいえば、ボールが動いた瞬間に体が反応することに似ていると思う。

 これができるのは、長くタイにいるからだ。毎日、タイ語に晒されているからだ。妻は日本語も英語も一切できず、タイ語で話すしかない。結果、子どもたちもタイ語を話すので、家庭内ではタイ語しか使われない。

ボクにはそういう経験と訓練の蓄積がある。だから、移住者が最初からボクと同じくらいタイ語ができるわけはない。例外は言語習得に才能がある人だけだ。音楽的、運動神経的な才能がある人はいとも簡単に言語習得できるようである。

 かといって、タイに移住する際、本当にタイ語ができないといけないのだろうか。言語習得に才能がない人はタイに来ることはできないのでしょうか。

そんなことはない。というのは、今バンコクはアメリカのロスに続いて日本人が多い都市だ。これだけ日本人がいるということは、日本人向けのサービスも充実している。すなわち、働く側にとっても、必要な言語は日本語ということになる。簡単にいえば、別にタイ語も英語もできなくたって、タイへの移住は可能だということだ。

転ばぬ先の杖にタイランドエリートがなりうる

 極論をいえば、タイ居住は日本語だけでどうにかなる。ビザの更新やなんらかの手続きでタイの役所に行かなければならないとき、日本語も英語も通じないことはあろう。そんなときは通訳を誰かに頼めばいい話だ。だから、言葉は必須ではない。

 もしタイ語ができた方がいいという場合は緊急事態のときくらいか。交通事故に自分が遭った、あるいは連れ合いが目の前で、というケース。犯罪被害のケースもそう。救急車や警察を呼ぶ場合にタイ語がないとかなり不便というか不利な状況になる。

年齢によっては病気という危機もある。急病で病院に行きたいときにタイ語ができないと大変だろう。病院まで行ってしまえば、大きなところなら日本語通訳が常駐しているので問題はない。

 もちろんこういった危機的状況に陥るケースは稀だ。危険が迫ることが頻繁でないからタイは日本人に人気の移住先に選ばれるわけで、そうめったに緊急事態にはならない。しかし、まったくないとも言い切れないのも現実。

 そう考えると、事故はともかく、病気くらいなら日ごろから気をつけていればある程度回避することは可能だ。要は、常に健康に気を遣っていればいい。特にタイは医療大麻も解禁になったなど、日本ではできない治療も受けられる。薬事法などが違うので、日本では使えない薬剤も利用できることだってある。また、近隣諸国と比較しても医療レベルは高く、タイ国内で対応できない病気は基本的にはないといっても過言ではない。

 ただ、その分医療費は高い。海外旅行保険などがあればいいが、長期間滞在向けのものは保険料が高額だ。また、日本の国民健康保険なども一応利用することができ、日本に帰国後に請求すれば一部の治療費は戻ってくる。とはいえ、日本人が安心の大手総合病院は治療費に数百万円かかることも珍しくないので、負担は大きい。

 だから、日本居住時以上にできるだけ病気はしたくないというのがタイ在住者の大半の思いだ。健康維持をするなら公園での運動や食事に気を配るなどのほか、最低でも年に1回は健康診断を受けておきたい。バンコクの大病院なら最新技術と機器を使った健康診断が受けられる。ただ、やっぱり高い。

 そこでおすすめできるのが、本連載で何度も登場している『タイランド・エリート』だ。8種類のタイプがあって、すべてではなく一部のタイプに健康診断の無料受診が特典でついてくる。これはかなり大きなメリットだ。

ほかにはスパ・マッサージ、ゴルフ場の特典などもあるので、健康診断だけでなく、運動をして病気の予防、健康維持ができる。こういった観点から考えても、タイランド・エリートは案外にメリットが大きい。

執筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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