第5回「問題はお金がかかることだが逆に言えば…?」

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連載最後は、タイの医療水準が高いことに関係するある問題点をクローズアップしたい。簡単に問題解決が可能ではあるが、知らないと病院での支払い時に膝から崩れ落ちる結果になりかねない。その問題とは、医療費の高さだ。水準が高い分、医療費は日本とは比較にならないほど高いので注意したい。問題解決の一番の方法は、転ばぬ先の杖を持つこと。つまり、保険に加入することなのだが。

医療レベルや病院設備が高級なので医療費は高い

 たとえば歯科医療はタイでは自由診療のため技術力が高くなり、日本の歯科医療より優れている。一方で、自由診療であるために医療費が高くなる傾向にあり、無保険で通院すると大きな出費になってしまう。

 ほかによく知られているのは盲腸なども高額になりがちだ。そうなるものではないが、ならないと思っているとなってしまうのが病気だ。盲腸で入院すると、手術や入院費で100万200万円は飛んでしまうと言われる。

 救急車も公共のものを使えばいいが、タイ語ができないと呼ぶことは難しいので、そうなると私立病院などの私設救急車を利用することになる。これはだいたい有料。また、地方で病気になってバンコクに搬送してもらいたいとしても、公共の救急車は対応できないし、慈善団体の救急車も県外移動の場合は数千バーツの謝礼を支払わないといけない。アメリカの救急車事情よりも安いとはいえ、それなりの出費を考えておかないといけない。当然ながら、ヘリコプターを利用するとその額はタイとはいえおそろしく高くなる。

 医療費の高さはそれだけではない。日本語ができる巨大な総合病院はホテル並みの個室や食事が提供される。これで安いわけがない。病院によっては1泊あたり10万円はするケースもあるなど、とてもじゃないが一般人には払えない金額が設定されている。その分、至れり尽くせりで、付き添いの人があまりにも快適すぎて延泊してほしいと言うくらい。とはいえ、支払いをする側は考えただけでもおそろしい。

 というわけで、この問題を解決する方法は保険に加入することしかない。

短期なら海外旅行保険やクレジットカード付帯でもいい

 健康な人ほど保険は微妙なものに感じるかもしれない。病気になるかわからないのに、毎月一定額の保険料を納めるのはバカらしいと考えるだろう。一説では、支払った保険料よりも、実際に支払う治療費の方が長い目で見て安いという話もある。しかし、それはタイなら国立病院などの治療費も安い病院に行った場合に限る。タイの私立総合病院は治療費も入院費も高すぎるので、間違いなく保険に入った方がいい。

 タイの国立病院も決して医療レベルが低いわけではない。しかし、主にタイ人が、特にタイの社会保険加入者が多数利用するため、待ち時間が長すぎる。また、何度も書いているように日本語通訳は基本的にいない。そのため、外国人が利用するのは私立病院になってしまう。ということは、自動的にタイでかかる医療費は決して安いものではないということになる。

 また、タイは常夏の国で日本と違い体調を崩しやすい上、交通事故なども多くケガをする確率も高い。病院にお世話になる人は決して少なくないのだ。だからこそ日本人通訳が常駐するくらいなわけで、そうそう病院と無縁で過ごすわけにはいかないのが現実だ。

 もし「タイランド・エリート」を利用して短期滞在を繰り返しながら、日本とタイを往復する場合は海外旅行傷害保険でもいい。あるいは、新型コロナウィルスの影響でだいぶ条件が悪くなりつつあるが、クレジットカードの保険も効果的ではある。しかし、これらはせいぜい3ヶ月未満の短期滞在に向く。

 そうでない場合は、現地で保険に加入するということも視野に入れるといい。意外とタイの保険各種は充実していて、外国人でも加入することが可能だ。観光ビザでは難しいが、タイランド・エリートの長期滞在ビザなら選択肢も多く、仮にタイを去っても有効なものもあるので、よく吟味して選ぶといい。

タイ国内でタイの保険に加入するメリット

 タイの健康や傷害関連の保険は大きく分けると、掛け捨てと積み立て型がある。よくも悪くもタイは社会保険が充実していない。年金制度も近年給付が始まったくらいで、それまでは自分のケガや病気、老後は自分で面倒を見ることが当たり前だった。そのためもあって、タイでは家族内の助け合いがしっかりしていて、それがタイ人らしい絆になっていた面もあろう。

 とはいえ、タイ政府もこの問題を放置しているわけではない。所得レベルから言ってもすべての国民から税金を取ることも難しいので、タイ政府は社会保険を充実させることが困難だった。そこでタイ政府は民間の保険をわりとしっかり保障している。たとえば、日本の養老保険や積み立ての保険は元本割れをする可能性をはらんでいる。一方タイの保険は、契約時に満期支払いの条件を提示することが義務付けられていて、しかも保険会社に問題が起こっても、基本的にはタイ政府がそれを補償するということが前提になっている。この条件を利用して、会社員などの駐在員の中にはタイ駐在中に保険に加入する人もいるほどだ。

 ただ、この条件が適用されるのは、免許を持つ保険外交員や保険会社と契約することになる。気をつけたいのは、稀に外国人には保険金が支払われないタイプもあるので、加入して保険金を払いつつ、いざ病気で使おうとしたら拒否されたというケースもある。

 こういった保険関連の話はとても重要なので、保険に関しては別途、次の5回連載で詳しく紹介していくことにしよう。

無保険で亡くなってしまった日本人もいる

 タイの医療は総じて優れており、移住初心者でも安心な部分が多い。医療費が高いのが難で、保険加入は必須だし、最悪現金かクレジットカードがあれば拒否されることはない。私立病院は特に営利でもあるので、慈善団体の救急車が重傷者などを搬送しても、現金かクレジットカード、保険の有無を確認し、支払い能力がないと見るや搬送を拒否する。

 また、在住日本人の中には保険に加入していなかったばかりに、重い病気にかかったときにどうしようもなくなり、日本に帰国して国民健康保険で治療を受けたという話はよくある。ボクの知り合いの日本人は保険がないままに入院したものの病室代と手術代が高額であることを知り、途中で勝手に退院。その日のうちに自宅で亡くなってしまったケースもある。

 残念ながら、こういった実例は無計画だったツケが回ってきたといえる。しっかりと移住計画を立て、万が一のケースで病院に世話になることをあらかじめ考慮しておけば、せっかくの楽しいタイ生活が無意味に終わることもない。むしろ支払い能力さえあれば、タイは日本でできない治療すら受けられるくらいなわけだから。

 そう考えると、タイランド・エリートの年1回の健康診断サービスは少なくとも年に1回は自身の健康とタイ生活について考える機会ができ、ものすごく有意義だ。タイ移住生活も健康な身体があってこそ。その支えになるのが病院なので、メリットの部分をしっかりと享受できるように移住計画を立てたいところだ。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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