第2回目 タイ料理は実は健康に向いた料理ジャンルだ

 タイ料理は味つけが濃く、脂っこいものも多い。そのため、食べ方次第では肥満の原因になるなど、食べ方には注意したい。

 一方ではタイ料理は健康管理に理に適ったものでもある。というのは、前章で軽く触れた、タイ料理に多用される香草類の「サムンプライ」が使われているからだ。「タイランド・エリート」の特典にある美容スパなどではハーバルボールなどを使う。これはこのサムンプライを集めて麻の布で包んだものだ。ハーバルボールは肌から薬効を取り込み、タイ料理では直接口から取り入れるのである。

 そんなサムンプライのおかげで、タイ料理は意外と健康的であったりする。ここではそんなタイ料理の中でも重要な役割を担うサムンプライについて紹介していく。

トムヤムクンは抗がん性が高い料理

「サムンプライ」は薬草、あるいはタイ・ハーブと呼ばれるが、タイ料理の中では香草と訳した方が無難だろう。ご存じのパクチーもその一種だ。

余談だが、パクチーは今や日本でしっかり定着したタイ語だが、90年代後半、あるいは2000年代初頭は全然通じなかった言葉だ。あのころはパクチーは英語のコリアンダー、もしくは中国語のシャンサイと呼ばれた。2010年以降になってタイ料理人気が高まり、ナンプラーと共にパクチーが通じるようになった。

日本人にはパクチーがサムンプライの中で最も有名だが、タイ料理にはほかにもたくさんの香草が使用される。たとえば、「トムヤムクン」だ。トムヤムクンというスープではなくて、これはエビ(グン)入りのトムヤムスープのことだ。実はエビからスープを取ってはいない。

トムヤムスープはサムンプライから出汁を取っている。レモングラス、コブミカンの葉、「カー」というショウガの一種、「マナーウ」(ライム)が主なサムンプライだ。ただ、和食のように出汁を取るという概念はなく、正確にはサムンプライを「煮出した」液体がスープとなる。

1990年代のころだったと思うが、京都大学などがトムヤムのスープを研究したことがあって、それが日本のメディアなどに発表された。研究結果はなんと『トムヤム・スープは抗ガン性が高い』ということだった。当時、研究チームが世界的な消化器系のガン発生率をタイの発生率と比較してみたところ、タイだけは半分以下だった。そのため、食べるものなにかの理由があると見たチームはタイの食材を調査。そのときに、レモングラスやコブミカン、カーに抗ガン作用があることがわかったという。

 要するに、サムンプライはタイ料理に使う食材あるいは調味料のひとつでありつつ、実は日本の漢方薬でいう原材料の生薬でもあるということだ。実際、古式マッサージで有名なタイ伝統医学でもサムンプライは薬剤として利用される。先のハーバルボールもタイ伝統医学の薬学を応用したものだ。

ただ、中国伝統医学に伝わる『医食同源』という考え方がタイ伝統医学やタイ料理の世界にはない。そのため、タイ料理を食べることで身体の不調をを治すという治療法や考え方はタイにはない。それでも、自然、タイ料理には先人の知恵が詰まっているのである。

サムンプライは直接食べないものもある

 タイはサムンプライがとにかく身近だ。タイ全土でいつでも容易に手に入る。市場にも売られているし、田舎に行けば林や森の中などに生えている。日本で人気の「ガパオライス」のガパオはバジルのことで、これもまたサムンプライのひとつである。

特にスープ料理ではサムンプライは絶対的に欠かせない。鶏肉を使ったスープ「トムカー・ガイ」はここで紹介するにはいい例になる。使うのは鶏肉でなくてもいいのだが、このトムカーというスープそのものがおもしろい。

というのは、材料はトムヤムスープとまったく同じだからだ。トムカーの「カー」はトムヤムの材料でもあるサムンプライのひとつのカーのことだ。日本語ではショウガの一種と訳すケースが多いが、実際にはガランガルというハーブになる。とはいえ、ショウガの仲間なので、一応ショウガと訳しても大きな間違いではないけれど。

カーはかなり固いので、日本のショウガのようにスライスできない。そのため、分厚く切って各種スープに使用する。そして、トムカーではトムヤムよりもこのカーを多く使用するので、こういったスープ名になった。

同じ材料ではあるものの、トムヤムとトムカーが唯一違うのは、トムヤムスープの白濁しているタイプは完成直前にココナッツミルクをつけ足すのに対し、トムカースープはココナッツミルクでトムヤムスープと同じサムンプライを煮出すのだ(レシピによって作り方は違う)。トムヤムスープに必ず使うタイの合わせ調味料、あるいは合わせ味噌である「ナムプリックパオ」が入っていないこともあって、トムヤムスープよりは辛みが少ないが、風味そのものはトムヤムスープにかなり似ている。

ほぼ同じ材料で作る料理は、日本でなら同じ料理と判定されがちだ。しかし、タイは違う。イサーン料理のひとつである肉サラダの「ラープ」は日本人にも有名だが、同じ材料で肉の切り方だけが違う「ナムトック」という料理もある。これらはタイ人からすると別料理で、このあたりは日本人とはちょっと違う感覚かもしれない。

違う感覚といえば、サービス精神はタイの調理師と日本人の調理師では大きく違うかもしれない。というのは、タイのスープ料理で使われるサムンプライはそのまま入っている状態で供されるからだ。スープに使うサムンプライは基本、固くて食べることができない。そもそも煮出すために使っているだけなので、避けて食べないことが基本だ。

ボクがいつも疑問というか、これらスープ料理に持つ不満は、サムンプライが入ったままのために意外と可食部分が少ないことだ。要するに邪魔なのだ。和食などでは食べられないものはあらかじめ取り除くことが多いので、このあたりはちょっと残念に思う。

スープ内のサムンプライは煮出したら取り出したって問題ないはずなのに、わざわざ食べられないものを入れっぱなしにする意味が正直わからない。ただ、先の抗がん性などを考えると、取り出してなくなってしまうより、食べられなくてもあった方がありがたみがあるかもしれないが。

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