第1回目 タイの渡航をより安心・安全にするために必要な保険

 移住先として人気の高いタイは、現実には事故や病気になる可能性が日本よりも高い。これは文化や生活習慣の違い、それから土壌の関係で口に入るものが日本産とは異なったり、気候などが要因になる。必ずしもタイではなくても、あるいはタイが日本よりも安全な国であったとしても、そうなる可能性は消えることがない。

 とはいえ、以前の連載で紹介したように、タイは医療水準が近隣諸国と比較してかなり高い。しかも日本語が通じる病院が大都市には複数あるので、言葉の壁が低いのもまた我々日本人には好都合だ。

 一方で大きな問題もある。医療水準が高いことから、タイは医療費が高い。まして日本人はみな国民健康保険などに加入しているので、日本国内ではかかる負担が低いこともあって、タイのそれはより高く感じる。実際、在住日本人の中で医療費の支払いで問題を抱え、帰国をすることになったり、最悪のケースでは死に至る。

 そうならないために加入しておきたいのが保険だ。今回はタイの長期生活がより安心・安全になるよう、保険についてのアレコレを見ていこう。

交通ルールの違いで事故に遭う

 海外慣れした人でもタイで生活をしていれば大なり小なり、体調を崩したり、身の危険を感じたりする。むしろ、海外慣れしていれば油断が出てしまい、より深刻な問題に直面するかもしれない。

 タイで考えられる危険なこととして真っ先に挙げられるのは交通事故だ。「タイランド・エリート」で渡航される方は多くがバンコクを生活拠点に選ぶでしょう。バンコクは慢性的な交通渋滞問題がある。逆に言えば、車が速く走っていないので安全ではあるが、他方バンコクの交通ルールはわりと複雑だ。

 たとえば、大通りが中央分離帯で上下線を分けられていたら。日本だったら、分離帯の左右で走行方向がきっちり分けられている。ところが、タイは中央分離帯のすぐ横の1車線だけ反対方向に向かう車が走っていることがある。横断歩道を渡り、中央分離帯から向こう側の車線に出た場合に左側だけを注意して見ていたら、いきなり右側から突っ込まれるということもある。実際、ボクは日本人男性がそれで車に跳ねられるところを見たことがある。

 この中央分離帯を隔てた走行方向のルールはバンコクだとBTSサイアム駅の前にあるデパート「サイアム・パラゴン」前からBTSプルンチット駅の少し先、スクムビット通りソイ3の交差点までが該当する。北部チェンマイ市内のある一部分は、周辺の一方通行や変則的ルールが重なった結果、アメリカのように右側通行になっている場所すらある。

 特にタイは日本のように車が歩行者を優先するという習慣が根づいていないので、横断歩道などでは歩行者が車に注意しなければならない。こういったタイならではの交通ルールや暗黙の了解をしっかりと知っている必要がある。

季節感がないことが体調悪化の要因になる

 タイの日差しが意外と体を蝕む。たとえばボクがバンコク市内のどこかに取材に出かけるとする。暑いので半袖で昼過ぎから夕方くらいの数時間だけ出かけた。曇天でさえこの数時間でシャツと露出部分の色にくっきりと違いが出るほど焼けてしまう。

 日差しによって起こるのは肌の傷みだけではない。体調にも大きな影響を与える。日本は年間の中で暑い季節はせいぜい3ヶ月くらい。タイ、といっても特にバンコクや南部は12月、場合によっては1月に数日ほど涼しい日があるくらいで、あとはずっと暑い。

 間断なく高温多湿が続くと多くの外国人は胃腸に変化も出てくる。食欲不振にもなるだろう。タイ料理に辛いものが多いのは、トウガラシの辛さが体温を下げるともされるし、胃腸の活性化の意味合いもある。ただ、辛味は味覚ではなく痛覚だそうで、辛い料理が苦手な人はタイ料理で体調を整えることは困難。そういうときに頼ることになるのが結局は医療であり、かといって高額の医療費を毎回負担するのは厳しい。となると、保険というのはかなり重要なものになってくる。

 余談だが、タイ人と会話をしていて過去の話になると、正確な日付を憶えている人があまり多くないことに気がつく。10年も前のことになると、最近という人もいれば20年くらい前という人もいて、記憶のギャップが激しい。これはいい加減なのではなく、憶えられないからだと長く住んでからボクは気がついた。日本なら季節、年度ごとの服装の流行などと共に記憶に残っている。ところがタイは年中暑いので、ある出来事が去年のことなのか3年前なのかがわからなくなってくるのだ。日本人を始め外国人もタイが長くなるにつけこの傾向が出てくるので、気温というのは人間の記憶にも重要な要素なのである。

出国前に保険に加入するべきか否か

 転ばぬ先の杖として、タイに長期滞在する場合、特にまだタイ生活に慣れていない人は保険への加入は必須事項だ。では、どんな保険に加入するべきなのか。詳しくは今回の連載でそれぞれ紹介していくが、まず第一に大きく分けると、日本出国時に加入する保険と、タイに到着してから加入する保険に分けられる。

 日本出国時の保険とは海外旅行保険、あるいは海外旅行傷害保険と呼ばれる保険商品だ。空港の出発ロビーにある保険会社のカウンターやATMのような無人の機械から加入する。ただ、契約期間が長くなるほど高額になるので、考え方によっては傷病リスクと割に合わないかもしれない。

 クレジットカードの付帯保険も出国前に加入できる保険だ。ただ、クレジット会社ごとに条件が違うので注意が必要。手続きをしないまま利用できる自動付帯もあれば、航空券や空港までの乗りものでカードを切らないと保険金が支払われないなど、事前にしっかりと適用条件を把握しておかなければならない。

 一応、日本の国民健康保険も使える。ただ、先払いで帰国後に日本の適用範囲で還付が受けられるということが前提なので、転ばぬ先の杖というよりは、出費を最小限に食い止めるリスクヘッジのようなものになる。

 タイで加入できる保険は大きく分けると、生命保険型と養老保険型になる。商品や保険会社によって違うが、一般的には外国人の場合は労働許可証の提示が必要だ。しかし、「観光ビザ以外のビザで数ヶ月タイに滞在」していれば労働許可証がなくても加入できるところもある。「タイランド・エリート」での滞在はまさに「観光ビザ以外」に該当するので基本加入できると思っていい。このあたりは以降の連載の中で書いていく。

 この記事が掲載される2021年11月時点で、タイは深刻な新型コロナウィルスの蔓延が問題になっている。しかし、タイは同月1日から条件付きで観光客でも入国ができるようになった。この条件というのはワクチン接種が完了しているなどいろいろあるが、そのひとつに保険の加入もある。5万米ドル以上の医療費を賄える保険の加入が必須なのだ。そのため、出国前の保険加入はタイ入国の最低条件に該当する。

タイ入国には在日タイ大使館の渡航システム「タイランド・パス」に事前登録する必要もあるので、この保険は出国のかなり前に加入しておかなければならない。加入先のひとつを紹介しておくと、このサイトを運営している「タイランド・エリート」の代理店で加入できる。「タイランド・エリート」の入会だけでなく、タイ渡航のための保険を探している方はぜひコンタクトを。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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