第1回「パスポートとお金の次に大切なのはスマートフォン」

第1回「パスポートとお金の次に大切なのはスマートフォン」

タイは日本よりもスマートフォン(以下スマホ)の環境がずっと優れている。スマホ普及率も高く、ある調査会社の発表では2020年1月時点でスマホ普及率が94%におよんでいるそうだ。同時期の日本は83%。タイがいかにスマホ社会かがわかる。『Facebook』や『Instagram』などにおいて個人による情報や画像発信も盛んで、日本よりも人口が少ないにもかかわらずアカウント数は多かったりする。そんなタイにおいて今やスマホは生活に欠かせないアイテムになった。今回はそんなスマホに関する事情を見ていきたい。

老若男女問わずスマホがないと生きていけない?

 日本の郵便局から海外に向けて国際郵便EMSを発送する場合、手書きの送り状を受けつけてもらえなくなったことをご存じだろうか。自宅のパソコンあるいはスマホから郵便局の公式ホームページに入り、EMS送り状に必要な項目を打ち込んでいかなければならない。パソコンでは自宅でプリントアウト、スマホなら郵便局の機械にスマホ画面に出てくるQRコードをかざすと送り状が出てくる。

 これは実家の母から聞いて知った。確かに手書きだと判読できないこともあろう。ただ、日本は字をきれいに書くことが文化なので日本人の送り状は問題ないはずだ。ほかの国の人のアルファベットは確かに読みにくい。しかし、ここでの問題はそのことではなく、打ち出しの送り状作成は高齢者にはちょっとハードルが高いのではないか、ということだ。時代がそういうものなのかもしれない。どこかの時点で切り捨てられてしまうユーザー層があって、そうしない限り様々なことがデジタル化されないという現実もあろう。

 これは日本の一例だが、実はタイはその点でいえばもっと顕著だ。タイ政府は経済発展の計画に様々なサービスにおけるデジタル化に特に力を入れている。「タイランド4.0」というビジョンを2015年に掲げ、実際にここ数年でいろいろなことがスマホだけでできるようになった。

 たとえば、タイの銀行に口座があれば、それを銀行のアプリと紐づけることで各種支払いや送金などがスマホからできる。最も画期的(?)なのはこのアプリを利用して屋台でも支払いができることだ。

さらに、タイでも電子商取引が盛んになってネットショッピングも当たり前。クレジットカードがない人もスーパーやコンビニで手軽に支払いができるし、タクシー配車アプリなどは現金払いにも対応するなど、なにからなにまで便利になった。これらを利用しない手立てはなく、タイへの移住、タイ国内での生活にスマホは欠かせないアイテムになっていることは間違いない。

スマホは街歩きにも欠かせないアイテム

 日本においてもスマホの利便性やメリットは大きいが、タイでもそれは変わらない。いや、むしろ命に係わることにだって対応できる。それくらいスマホは大切だ。

 タイに移住したばかりの場合、当然ながらタイの文化に精通しているとは限らないし、言葉の壁も出てくる。そんなときにスマホがあれば翻訳機能で意思疎通ができる。これは大きなメリットだ。タイは教育がしっかりしているので識字率が高く、画面を見せるだけでも問題ない。スマホのアプリや機能によっては音声で通訳できることもあるので便利だ。

 街中で見かけた店や看板を調べるにも便利だし、やはり地図が特にいい。かつてはガイドブック片手に汗をかきながら観光地を巡ったものだが、今やスマホひとつで十分。ガイドブックは更新忘れがあって、行ってみたらなかったなんてこともある。ネット上のマップならその可能性も低い。ただ、注意したいのはどういうわけかネットのマップは日本国内で使用するものよりも精度が低い。道がないのに案内されることもあるし、治安状況は反映されていないので、ある程度自分の目と勘を信じた方がいい部分もある。

 さすがに海の沖合、あるいは山岳地の奥になると電波は届かない。しかし、タイは日本と比較すると携帯電話サービスが始まった時点で全土的に利用できるようなシステムや電波状況が構築されていた。90年代後半には特に富裕層に携帯電話は欠かせないアイテムで、ある種のステイタスもあった。携帯をわざと手に持って歩く人もいたりしたのだ。まあ、その当時は重く、大きかったというのもあるが。

この全土的に携帯電話機のネットワークを設置したのは、今やタイの政治状況を悪くした人のイメージが強いが、タクシン・チナワット元首相が政治家になる前に始めた事業である。『タイランド・エリート』が始まったのもこの人が首相だった時代だ。90年代に日本で携帯が普及し始めたころ、携帯ショップで電波状況のマップを見せてもらってキャリアを選んでいたものだ。都内でさえ自宅が圏外ということが当時あったのは、今の若い人には信じられないかもしれない。しかし、タイは少なくともバンコクや地方の大きな街は、最初から隅々まで問題なく使えた。しかも、日本のように携帯端末とキャリア(携帯電話サービスの会社)が紐づけられていなかったので、自由に端末を選ぶことができた。このあたりの事情が、日本よりもタイの方がスマホ普及率が高い事情のひとつなのかもしれない。

プリペイドもあってSIMカードの入手性は高い

 タイで暮らしていれば、当然ながらタイの携帯キャリアを使用するべきだ。日本から持ち込んだスマホを、日本で使っていたままの状態で使用することもできる。いわゆるローミングサービスを使用することで、日本の携帯番号をそのまま使ってスマホを利用できる。

 ただ、そうするとタイ国内にいる間は国際電話を常時使用しているようなもので、電話をかけてもネットを利用しても、日本国内で使用している料金水準では済まない。日本国内にいる人が電話をかけてきたときも、かけた人は通常の国内通話料金、受けた側が国際電話料金を負担する仕組みにもなっている。これによって、翌月翌々月になって日本で何十万円という請求が届くこともよくある話だ。

 だから、タイでスマホを利用するなら、なんといってもタイの携帯キャリアのSIMカード(番号情報などが入ったチップ)を使うことだ。タイはSIMカードの入手性も日本よりずっと高い。キャリアやSIMなどについては第4回目に詳しく紹介するが、SIMカードは大きく分けるとプリペイド式とポストペイド式に分かれる。プリペイドは課金式で利用でき、ポストペイドは日本のキャリアで契約するような、いわゆる月極のタイプになる。

 ポストペイドはタイランド・エリートのメンバーなら契約できるキャリアもある(場合によっては労働許可証の提示を求められる場合もあり、タイランド・エリートのビザだけでは契約できないこともある)。プリペイドは外国人でも簡単に登録でき、素早く入手が可能。音声通話不可でインターネット利用しかできないデータSIMなら空港にも販売窓口があって、タイ到着時に手に入れることだってできる。

 このように入手性が高いし、昔と違って日本のスマホにそのままタイのSIMを入れて利用もできるので(できない場合もあるが詳細は別の章で)、すぐさま情報収集や誰かへの連絡が可能になる。そういう点ではここ10数年前と比較して海外旅行や移住のハードルがかなり下がったといえる。

 日本人が海外に行ったときにはとにかくパスポート。これが命の次に大事だといわれるほどのもので、それは今も変わりはない。日本人であること、タイ入国を認められたことを証明する唯一の書類だ。

次にお金。これさえあればとりあえずなんだってクリアできる。たぶん以前はこの次に必要だったのはコミュニケーション能力とか言語力だった。今は絶対的にスマホであろう。パスポートとお金とスマホ。これさえあれば、手ぶらで到着してもあとはどうにでもなる。それくらいスマホの重要性は高いのだ。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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