第2回目 タイで起こりうる危険とは


ここではタイで保険に加入するか否かの前に、タイにおいて日本人が巻き込まれる可能性の高い、あるいは実際に巻き込まれることが多い事故や事件、病気を具体的に紹介したい。海外移住はどの国であれ、住み慣れていない違う文化の国に行くのだから、リスクを事前学習しておき、それに備えておきたいものだ。そして、さらに安心のために保険加入をする、ということも検討したい。

事故と病気ではどちらが遭遇しやすいか


 タイ生活において、事故などの傷害と生活の変化で起こりうる病気ではどちらがリスクが高いのだろう。これはライフスタイルにもよる。交通事故に遭う、あるいは犯罪被害に遭う可能性は日本ほど低くないリスクがあるのは事実だ。
「タイランド・エリート」のメンバーはバンコク中心に居を構える人が多い。その辺の犯罪発生率は高くはない。ただ、日本やほかの国で培った危険察知能力はタイ移住当初はやや低いと思っていた方がいい。そのため、安全な場所でもなにかしらの危険がすぐそばにあるという警戒は常にしておくべきだ。
 タイは運転マナーが日本とは全然違う。そのため、車やバイクに軽く引っかけられるということは日ごろから起こること。気候が違うので体調を崩しやすい。意外とあるのが、運動不足による体調や体質の変化だ。日本なら10分くらいの距離は歩くけれども、タイだとその10分がかなりきつい。暑すぎて歩けなくなるのだ。
 持病がある人の中には気候変化で体調を崩し、一気に悪化する場合もある。ボクの知り合いは毎日酒を飲むのもあったが、商業施設で脳の血管が破裂してその場で亡くなった。ある日突然、そういうことも起こるので、特に医療費の高いタイでは生活を見直したり、保険に入っておくことが重要になってくる。

交通事故でよく起こること


 具体的に起こりうる交通事故の事例をいくつか紹介しておきたい。移住当初は知らず日本式に行動してしまいがち。ここはタイだということを意識して過ごしたい。
タクシーの乗降
 タクシーは日本の自動ドアは世界的に見て稀有だ。タイでは自分でドアを開け閉めする。この際、後方を自分で確認していないとバイクが突っ込んでくることがあるので注意したい。タイ人でもよく巻き込まれることなので、タクシーの乗降は意識しておくことをおすすめする。
交差点や横断歩道
 タイは車優先で、横断歩道を渡るときでも歩行者が車を見ていなければならない。完全にこちらが先に渡っていた場合に突っ込んでくることはないが、どっちが先かギリギリの場合は車が止まることはない。だから、仮に青でも左右の確認はしておきたい。
 また、タイの交差点で日本とまったく違う習慣のひとつに、左折は赤信号でも行けるというのがある。禁止のところもあるが、現在でも左折可交差点はバンコクだけでもかなりの数にのぼる。要は、左折時に向こうの直進車がなければ行っていいというルールで、結果的に運転手は車が来ているかを見ているだけで、横断歩道を渡っている人がいても構わず突進してくる。
追突事故
 乗っている車がぶつける場合もあれば、ぶつけられることもしばしば。タクシーなら運転マナーが悪い、運転が下手な場合は降りた方がいい。バンコクはタクシーがいっぱいあるので、降りてもすぐに別のタクシーを捕まえることができる。
 バンコク中心地は渋滞がひどく、追突事故による重大人身事故はそう起こらない。一方、深夜の郊外は危険。仕事で郊外に行くこともあろう。大物ミュージシャンのコンサートは郊外のコンベンションセンターで開催されることがほとんど。長く住んでいればタイの友人ができ、郊外の飲食店に誘われるかもしれない。そんなときの帰り道、タクシーの飛ばし過ぎによる事故は結構多い。ボクは一時期レスキュー隊のボランティアをしていたので何回かそういう事故も見ているが、中には見通しのいい直線道路で運転を誤り横転。タクシーが真っ二つに割れた事故もあった。運転手は亡くなったが、乗客はケガで済んではいた。
 他県へ長距離バスや乗り合いバンで移動する際の事故も少なくない。バスは事故が起きると横転や火災の可能性もある。そう滅多に遭遇する事故ではないが、乗るときは非常口の確認や、窓を割る器具の配置位置を把握しておくといい。
通りが冠水してしまったとき
 ある有名日本人プロレーサーによれば、タイの道路はサーキットと同じ路面になっているのだとか。摩擦係数が低いので、スリップしやすいのだ。特に降り始めはスリップ事故が多発する。ときには10台近くを巻き込んだ玉突き事故だって起こる。都心でもバイクや乗用車のスピンもある。巻き込まれないよう、常に歩道を歩く際は車道側ではないところを歩くべき。これはバイクのひったくりを避けるのにも有効だ。
 交通事故ではないが、雨季後期には冠水もよくある。道路がひざ下くらいまで雨水に沈む。この時期はチャオプラヤ河も水位が上がり、バンコクの水はけが悪くなる。最近は日本人も多く居住するスクムビット通りソイ39の冠水確率が高い。
 冠水するとタクシーが行きたがらなくなるし、歩いて行くにしても下水も混じっているわけなので、危険度が高い。万が一なにかを踏んで傷でもできれば破傷風になるかもしれない。水の勢いでマンホールのふたが外れ、落ちてしまう可能性だってある。だから、安易に冠水の中を歩くことは避けたい。

タイ移住でなりがちな病気


病気も身近だ。気候の変化で体調を崩しやすく、また重大な病気にもかかりやすいのが現実だ。
風邪
 意外と風邪はよくかかる。日本の夏風邪に似ていて長引く人も少なくない。特に、商業施設は冷房がかなり効いているので、外との寒暖差だけでなく、雨に濡れて入ると一気に体が冷えてしまう。また、大人より子どもに多いのは意外とインフルエンザ。タイでも流行する年がある。
栄養バランスや運動不足による体調不良
タイは自炊にあまり向いていない。特にバンコクは屋台が多く、おいしくもあるので、つい外食が増える。実際自炊よりも屋台の方が安いので、家計を考えると屋台の方がいい。しかし、そうすることで栄養バランスなどに偏りが出てしまい、思わぬ体調不良を迎えることもある。
それから、運動不足にもなりがち。タクシー料金が安いので、つい自宅前から目的地まで車を使ってしまう。企業駐在員は特に自宅と会社のドア・トゥウ・ドアで車を利用するので、働いているのに運動不足という人も多い。幸い、タイは観光国でもあるのでアクティビティーは豊富。せめて休日などになにか趣味をみつけて運動するべきだ。
南国ならではの病気
 タイはマラリアやデング熱がわりと頻繁に流行する。ゴルフなどの際には虫よけを忘れないようにしたい。あとは、トカゲや昆虫など日本にはいないタイプの生物に噛まれ、その毒が体内に入るケースもあろう。
 日差しが強いので、日焼けによる肌の老化促進、肌のシミもある。照り返しも強いので、女性は要注意だ。タイ人を始め東南アジア人は夕方以降に活動的になるのは、こういった日差しを避けるためでもある。
・ガンなどになったら

 タイが原因ではなく、持病などが慣れないタイ生活で悪化することもある。脳溢血やガン再発などは在住日本人の中でもよく起こる。バンコクは医療事情が良好である上に、日本とは法令が違うこともあって、日本ではできない治療を受けることもできる。ただ、高額になるので、あらかじめ保険に入っておくことは大切なことだ。
 病気によっては日本帰国も視野に入れるべき。病気で不安なときに外国語でのやり取りや、海外生活で余計なストレスをわざわざ感じる必要はない。日本に帰って日本語で治療を受け、治ったらまたタイに来ればいい。タイはいつまでもタイのままである。焦る必要はない。

 現在の新型コロナウィルスの非常事態で感じた人も多いかもしれないが、自分の範疇ではない不可抗力の部分でタイへ自由に行き来ができなくなることがあるということがわかった。一方で、「タイランド・エリート」はこういうときでもいち早くタイと日本の往来が可能になったという、大きなメリットも見せつけてくれた。「タイランド・エリート」と保険。この組み合わせがあれば、タイ移住はかなり安心・安全なものになること間違いなしだ。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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