第2回目「タイ語ができなくても問題ない」

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医療用語は日本語でも難しい単語があるくらいで、それをタイで病院に行くことになったらタイ語あるいは英語でやり取りしていかなければならない。自身のときもそうだし、連れ合いや子どもが病気や事故で、となった場合に冷静に外国語で対処できるだろうか。本来であればその国の言葉で対応できる能力がある人が移住に向くのだけれども、タイが海外移住の初心者にいいのは、タイの病院は日本語が通じる点だ。そのあたりがほかの国よりもずば抜けて優れているので、誰でも簡単に移住できるというメリットがある。

日本人に向くのは私立の総合病院

 念のために断っておくが、日本語が通じる医療施設はすべての病院ではない。ほんの一部に限られている。しかし、たとえば東京に住んでいる人で、タイ語が通じる都内および近郊の病院を知っている人がいったい何人いるでしょう。そう考えたら、ほんの一部であっても日本語が通じるということはハイレベルなサービスなのではないか。

 タイの病院は巨大な総合病院と、街中の小さなクリニックに大別される。クリニックはごく一部に英語や日本語が通じるケースもあるが、ほとんど期待できない。そして、大病院は国立と私立に分けられ、主に私立の方に日本語が通じる病院が散見される。

 そもそも、在住の外国人が国立病院に行くことは稀だ。というのは、タイの社会保険制度が大きく関係していて、外国人に向かない。タイの社会保険は日本同様に被雇用者と企業、政府で分担して医療費を受け持つが、日本と大きく違うのは、タイは病院指定になっていることだ。

 たとえばタイで会社員になると社会保険に加入する。失業保険や年金などもそこに含まれ、当然医療保険もある。そして、加入する際にその時点での病院の空リストを見て、自宅、あるは職場から近いところを任意で選択して申し込むと、医療保険のカードに病院名が記載される。風邪など小さな病気でも大きなケガでも、そこで治療を受ければ無料か安く治療が受けられる、という仕組みになっている。一応、ほかの病院でも使えなくはない。しかし、病院側が手続きを面倒くさがって、基本的には拒否されることが多い。

 日本人など外国人でもタイで働く場合にはこの保険に加入する。病院は公立が多く、一部に私立病院も選択できる。いずれにしてもタイ人はわりと病院を多用する。国民の約8割がこの社会保険利用者で、人気のある病院は毎日待合室がいっぱいだ。そのため、待ち時間が長く、外国人の場合、病院に行くとなるとだいたいよほどのことなわけで、そんなに悠長に待っているわけにもいかない。そうなると、日本人が必然的に選択するようになるのは私立病院である。

バンコクの日本語が通じる総合病院

 とはいえ、日本人が私立病院を選択するのは絶対的に正しい。なぜなら、冒頭で書いているように、日本語が通じるからだ。すべての病院ではなく、特にバンコクにある、有名な巨大総合病院が日本語で治療を受けることができる。医師の中には日本の大学を出ている人もいるし、日本人医師がタイで医師免許を取得しているケースもある。また、医師に日本語ができなくても大病院なら通訳を置いているので、日本人通訳、タイ人の日本語通訳などが常駐していて安心だ。

 特に日本語が通じる病院は下記の病院になる。ほかにもいつくかあるが、特に有名なところを挙げてみた。いずれもバンコク都内であり、中心地からBTS(スカイトレイン)やタクシーでも乗りつけやすい。中には「タイランド・エリート」のメンバー向けの無料健康診断オプションが受けられる病院もある。

・バムルンラード病院 https://www.bumrungrad.com/jp

 BTSプルンチット駅からはスクムビット通りソイ1から、BTSナナ駅からは同ソイ3から徒歩圏内。

・バンコク病院 https://bangkokhospital-jsc.com/

 駅からはやや距離があるので、MRTペッブリー駅、BTSプロンポン駅、BTSトンロー駅からタクシーがいい。

・サミティベート病院 https://www.samitivejhospitals.com/jp/

 スクムビット通りソイ49なので、BTSトンロー駅が最寄り。日本人居住エリア内にあるため、今回紹介する3院の中では日本人利用者が最も多い。

 これらの病院は複数の病棟を持っていることもあって、遠くから見ると商業施設やホテルに見える。実際、ホテル内に世界チェーンのカフェや飲食店も入居していたり、個室がほぼホテル並みであったり、入院中の食事が(食事制限がない場合)どこかのレストランかと思うほど豪華だったりとすごい。和食が食べられるところもあるくらいだ。ただ、その分医療費が高いという現実もある。これに対処するには保険加入が必須と言える。これは連載第5回目に詳しく説明しよう。

ゴルファーはマラリアに注意

 ボク自身は会社員時代によくバムルンラード病院の健康診断を受けていた。よくと言っても年に1回だが、日本語で電話予約ができ、当日病院に向かうと、日本語で行先などを説明してもらえる。各検査場にはさすがに通訳はいないが、最後に日本語ができる医師に検査結果を見た所見を説明されて終了となる。正確な検査結果は後日郵送で送られてきた。タイランド・エリートの健康診断も似たような流れになることだろう。

 別の機会では、父を大病院に連れて行った。当時タイ語を学ぶためにバンコクに半年ほど滞在していたのだが、ちょっと体調を崩した。保険があったので病院に連れて行ったら、あとは病院の通訳がずっとつきっきりでいてくれる。診察室に呼ばれたらすぐさま待合室に駆けてきて、診察時も通訳してくれるし、最後に会計と薬の受け取り、薬の飲み方まで通訳してくれて帰って行った。これで特に特別料金を請求されないのだから、すごいサービスだと思ったものだ。

 やはり難なのは、これがバンコクの一部の病院に限られるということだ。チェンマイなど日本人が多い地域なら大きな病院に通訳が常駐しているが、地方の農村や、そもそも外国人が多くない都市は絶望的だ。移住初心者や、タイランド・エリートで移住する場合、そこまで過疎化が進んでいるようなエリアはそもそも向かない。移住初心者はやはりバンコクから始めるべきだし、タイランド・エリートのメンバーも特典の恩恵を受けることを考えると、僻地に行くことはあまりお勧めできない。慣れるまでは、旅行でそういった地域に行くだけにした方がいいでしょう。

 常夏の国なので、日本では考えられない病気や体調不良に見舞われることもある。タイランド・エリートのメンバーだとゴルフを楽しむために特典を利用する場合もあるだろう。ところが、たまに日本人間でデング熱が流行することがある。蚊を媒介する熱帯の病気で、タイでは2019年は9ヶ月間で約9万人が感染している。日本人も感染しているが、媒介するのはすべての蚊ではなく特定の種類から感染する。しかも、朝や夕方に飛んでくるタイプの蚊に感染シルクが高いとされる。ゴルフ場は池もあるし、タイでは早朝ゴルフが一般的なので、日本人ゴルファーに流行することがたまにある。

マラリアもあって、こちらは2020年の感染者は約3400人。厄介なのは、こちらを媒介する蚊は夜間に飛ぶ。両方とも雨季に発生しやすいとされ、バンコクにもその蚊がいて、稀に誰かの血を吸って病原菌を持った蚊が自宅の鉢植えなどの水たまりに住み着き、デング熱やマラリアのマンション内感染が増えることもある。

 バンコクはだいぶ減ったが野良犬もいて、中には狂犬病に罹っている犬もいる。そのため、昼間の犬はおとなしいが夜間には注意したい。バンコクはだいぶ少なくなって、いるとすれば他県などになるのだが。

 バンコクでもいまだにヘビがいるし、日本では見かけないオオトカゲも街中にいる。こういった動物に噛まれても危険だし、様々な病気や危険が潜んでいる。だから、タイに慣れていないうちはバンコクで慣らしていくことが無難な移住方法になる。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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