第2回目「バンコクならコワーキングスペースも充実」
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 タイがいかにWi-Fi天国かを前回紹介したが、Wi-Fiが自由に利用できることにはほかにも大きなメリットがある。特に自営業者やクリエイターには優れている。なぜなら、働く場面でネット環境が欠かせなくなっている現代、逆に言えば、ネット環境があればどこでも仕事ができるということでもある。2010年以降に入ってノマドワーカーといった言葉もでき、在宅勤務どころか、日本を飛び出して、世界中のあらゆる場所で仕事をするという日本人も少なくない。

タイはその点でも優れているので、ここでは引き続きタイのWi-Fiの魅力とメリットにクローズアップしていきたい。

バンコクに急増のコワーキングスペースのカフェ

近年、特にバンコクは若いタイ人クリエイターが増えている。たとえば服飾デザイナーなどがそうだ。以前はタイの縫製は劣悪で、1回洗うと色も落ちるし縫い目がほつれるしでひどいものだった。それがタクシン・チナワット首相の時代にファッション業界に力を入れたことで、このあたりが劇的に変化した。同時に若いデザイナーも増えた。

この流れとネットの発展によって、映像や画像クリエイターなども増え、組織に属さず自由に働く若者が多くなった。そもそもタイ人は日本の大学生と違って、大半が会社員になるというルートを歩まないので、自営業者は元々多い。

そんな若者向けに、ここ数年はバンコクを中心にコワーキングスペースと呼ばれる、昔でいう貸しオフィスのようなものや、あるいはそれを兼ねたカフェが増えている。日本人の若い実業家もそういった貸しオフィスを利用して起業しているケースもある。机ひとつ分のスペースくらいしかない小さな事務所だったり、あるいはひとつの事務所のデスクを間借りするような起業スタイルも増えている。こういったスペースのメリットは事務所の維持費が安いことと、起業に必要な住所を確保できたり、郵便物を受け取ることができることだ。

カフェスタイルのコワーキングスペースはなおよく、お洒落な内装で、しかも食事もおいしい。カフェなので洋食系のメニューが中心で、なおかつコーヒーなどもあるので、仕事がはかどる。別料金もなく、かかる費用は食事代だけというのもいい。

コワーキングスペースには当然ながらWi-Fi環境がある。仕事に使うのでそれなりのスペックであり、環境としてかなり優れている。自営業者や個人事業主、クリエイターなどはなにも自宅やオフィスで働く必要はなく、こういったスペースも使い放題だ。カフェなら気分転換にも最適だ。日本人の会社経営者の中には、残業はこういったカフェなどで、と場所を変えて働くなど、日本と違った自由を楽しめることが、タイのWi-Fiの大きな魅力といえよう。

Wi-Fi環境が全土にあるので旅先でも仕事ができる

 タイはどこでもWi-Fiが使えるので、山奥でもネットに接続できる。さすがのタイでも携帯電話の電波は山奥などでは拾えなくなるが、一般の電話回線があって、それに繋がるWi-Fiルーターがあればネット接続できるので、この場所を選ばないあたりもWi-Fiの大きな強みだ。

 ホテルやゲストハウスにもWi-Fiがある。ほとんどの宿泊施設が部屋でも使えるようになっているので、とにかく便利。「タイランド・エリート」メンバーは多くが住まいをバンコクに持つことだろう。なにもせずにゆったりと過ごす人もいれば、たまに日本(あるいは海外)に残してきた仕事をする人もいるかもしれない。そんなときに、自宅でやってもいいし、前述のコワーキングスペースでもいいし、なんなら地方に遊びに行って、その先でちょこっと仕事をしてもいい。海を眺めながら仕事をするなど、日本ではなかなかできない優雅さを体験できる。

 最近はノマドワーカーという言葉はあまり聞かなくなった気がする。「ノマド」とは遊牧民のことで、自由に働く場所を変えて収入を得る人たちをノマド、あるいはノマドワーカーなどと呼ぶようになった。2012年ごろから言われるようになった言葉だが、現在はむしろこういった働き方をする人が普通になっていることもあって、特別な呼称としていわば死語になったのかもしれない。

 日本のノマドワーカーはコワーキングスペースで仕事をすることが多かったので、同時にコワーキングスペースという言葉も定着したけれども、今やタイや東南アジアならどこにでもWi-Fiがあるため、なにもそんなカフェを探す必要すらない。もっと言えば、バンコクですらなくたっていい。実際、ボクの友人もタイやカンボジア、あるいはほかの周辺諸国を行ったり来たりしながら、パソコンひとつで仕事をしている。彼の場合、バンコクには目もくれず、パタヤなど海辺の町を放浪しているような生活をしている。

 最近は「経済的自立と早期退職(Financial Independence, Retire Early)」、略してFIRE(ファイア)を実践する30代40代も増えた。早ければ20代で準備を進める人もいるくらいで、実はタイランド・エリートはこのFIREとも相性がいい。

FIREを目指して完全に仕事を辞める人もいる一方、株などの金融投資の資金を確保し、その利益で生活するという方法もある。そういった場合、常にポートフォリオ(株やFXなどの資産構成)を管理し、資産の比率を変更する必要がある。タイの証券会社などで口座を持つこともできるが、日本の口座を残し、Wi-Fiを介してタイから比率などを調整することもできるわけだ。

収入確保の方法が多様化し、かつネット社会がより深く、幅広くなったことで、ある程度若いうちからセミ・リタイヤも可能になった。そんな人がタイランド・エリートを利用すれば滞在許可を申請・取得するために頭を悩ます必要もなく、快適にノマド生活ができる。

宿泊先でWi-Fiが遅かったときの直し方

 どこにいてもそうだが、ノマドワーカーのように生活する際に最も怖いのはネット環境を確保できないことだ。東南アジアは全般的にネットスピードや電波の強さに難があるケースが少なくない。無料でWi-Fiを提供するものの、そこにコストをあまりかけたくない飲食店やホテルもあるからだ。

 しかも、容易に設置できることもあって、極端な言い方をすれば、ルーターを買ってくればすぐにWi-Fiを提供できるため、設置者にあまり知識がないケースも多々見られる。飲食店であれば別の店に移動すればいいだけの話だが、ホテルでは簡単に移れないこともあろう。

もし宿泊先でWi-Fiの速度が著しく遅い、あるいはほとんど接続できない状態に陥っていた場合にある対処法がある。日本だったら怒られるかもしれないが、タイや東南アジア諸国ではしれっとやれるような簡単な方法だ。ルーターのことを知っている人ならすでにわかっていることかもしれない。それくらい単純な方法がある。

大きなホテルなら管理者がいるので、従業員にいえば対応してくれる。しかし、ゲストハウスのようないわゆる安宿はわりとWi-Fiが急に遅くなるときがある。電波はあるのに、ウェブサイトが全然動かなくなることもよくある。従業員がルーターを理解していないので、言っても対処してくれない。そういうときは、勝手にルーターの電源を切るといい。ただこれだけだ。

タイのゲストハウスなどは、たとえば2階より上だと、ルーターは高確率で廊下に置いてある。ボクの経験だと階段近辺、もしくは停電時の非常灯の上だ。東南アジアのルーターは大概半円形で、ふたつアンテナが出ている。この装置をみつけたら、うしろにスイッチがあるので一度切り、1分くらいしてつけるとほとんどのケースで通信速度が戻る。多くの人が同時に利用するので、長い期間使っているとなぜかネットが重くなることがあって、その状態では通信速度が悪化する。それをリセットするというわけだ。

気をつけたいのは、電源をシャットダウンするときにおそらく同じフロアでほかにもネットを利用している人がいること。声をかけてもいいし、静かに黙って電源を切り、再びつけるというスパイのようなスタイルで対処してもいい。とりあえず、この技は結構使えるので憶えておくといい。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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