「なにはともあれビザが大変」
かつて日本がバブル経済で景気がよかったころは、中国や東南アジア諸国から出稼ぎに来る人があとを絶たず、また滞在超過や不法就労をする外国人も少なくなかった。当時は日本のビザも厳しかったことがかえってそういった不法な外国人を増やした一端だろう。一方、90年代や2000年代初頭の東南アジアはビザなんてあってないようなものだった。極端な話、なんとかなるものでもあった。
しかし、今はそうはいかない。かつての日本のようにビザが厳しくなっているのが現実だ。タイの移住に関して魅力的なこと、そして気をつけたい部分などを、在住20年のライターであるボク、高田胤臣(たかだたねおみ)が5回連載で紹介していきたい。
かつてはビザなしでも長期滞在が可能だったタイ
タイは日本人の居住者が多い。日本の外務省が毎年発表している海外在留邦人者数の統計ではタイは世界で4番目に日本人が多く暮らす国になっている。都市別ではアメリカのロスに続いてバンコクが2番目だ。
これだけ日本人が多いのは、タイと日本の政府レベルでの関係が良好であること、タイ人自身もわりと日本人に対して友好的であること、それからタイ文化が日本人にもとてもマッチしていて過ごしやすいということが理由になろう。2000年代に入って製造業の海外拠点が中国一点張りだった90年代を過ぎ、新たな進出先を摸索する中で注目されたのがタイだったことも大きい。
徐々に日本人が増え、日本人向けのサービスも始まる。そうして居住環境がよくなり、さらに日本人が増える。そういった循環の中でタイの日本人社会が拡大していった。先の在留邦人の統計ではタイより日本人が多い国はアメリカ、中国、オーストラリアになる。国土が広い国ばかりだ。タイは日本と国土面積は大きく変わらない(若干タイが広い)。その程度なのに、日本人がこれだけ増えているのは、いかにタイが移住、あるいは長期滞在に向いているかということだ。
ただ、この人気はなにも日本人に限ったことではない。欧米諸国、それからアジアでは韓国人からの人気も高く、長期滞在者は少なくない。ラオス、カンボジア、ミャンマーは日本人以上に多くが来ている。単純労働などのためにタイ政府もこの3ヶ国にはビザの発給要件を変えて対応しているほどだ。
こうして外国人が増加することで増えてくるのが外国人による犯罪だ。日本も今は外国人労働者を受け入れていることもあり、彼らの犯罪が目立ってきている。タイの場合は特に入国には審査がないくらいに簡単に入ることができるため、不良外国人も少なくない。タイ政府がいう不良外国人とは、まずビザなどを持たない長期滞在者、それから金を持っていない者、そして不法就労をする者だ。
彼らに対抗するため、タイ政府は年々ビザの発給条件などを厳しくしている。90年代の終わり、あるいは2000年代初頭はビザなしの入国で30日ごとに近隣諸国に出国し、とんぼ返りをして滞在期間をリセットすることもできた。バンコクだと長距離バスで3時間も揺られればカンボジアに出ることができる。だから、日帰りで滞在期限をリセットすることも可能だった。
こういったビザの期限をリセットする方法はいくつかあるが、総称でビザランと呼ぶ。タイ政府はビザランをする者はすなわち不良外国人とみなし、これを取り締まったり、困難にするように制度を改めてきている。
難しくなったビザ発給
タイ政府のビザラン規制の方法としては、ビザなしの出入国の回数を制限。年間に何回も出入国を繰り返す人には入国審査時に「次回の入国時にはビザを取ること」という指示をする。実際にその後入国できなくなることもあれば、ある程度期間を開ければ入国できるケースなどあいまいな部分は多い。
ただ、かつてと比べるとビザが厳しくなってきたのは間違いない。出入国などを管理するイミグレーション警察の審査も厳格になっている。以前と比べ、近年は手続きが厳格になってきたものの、一方では融通の利かない状況になっているのも事実だ。
もちろん、正当的に書類が用意されていれば長期滞在ができるので、これまでもちゃんとしてきた人にとっては環境が変わらない、いや、むしろよくなったと言える。ただ、初めてのビザ延長手続きにおいてはどうしても不備が出てきて、そう簡単に延長できない。
簡単に言えば、今、タイのビザは厳格になってきているということになる。極端に言えば、金銭なんてどうにだってなる。日本から送金することだって簡単だし、クレジットカードを使えば買いものも現金も手にできる。人から借りたり、推奨するわけではないが誰かの商売を手伝って日銭を稼ごうと思えば稼げる。とにかく、金はどうにだってなる。
ところが、ビザは今や非常に厳格になってきている。観光ビザでは何ヶ月も長期滞在はできないし、ビザなしの滞在で何度も出たり入ったりはほぼ不可能。長期滞在するには企業に入って、あるいは自分で会社を立ち上げて就労ビザを取得しなければならない。そして、取得したあともちゃんと売り上げがないとビザの延長は拒否される。
高齢者の場合、ロングステイ・ビザなどもある。年金を日本政府から得ている、あるいはそれに相当する収入や資産があれば、そういったビザで滞在することも可能だ。ただ、申請には様々な証明書がいるので、結構大変だ。タイのビザは今本当に難しいのだ。
2003年からあったタイランド・エリート
ボクの滞在を例にすると、ボクは妻がタイ人である。そのため、タイ人配偶者向けのビザがあるので、それで滞在することが可能だ。このビザで労働許可証も取得できるし、婚姻関係が続く限りタイ国内で延長もできるので、就労ビザよりも長期滞在がしやすい。しかし、難点がある。それは、そもそもタイ人と結婚することが難しい。ちゃんとした出会いがあって、かつ配偶者の家族とも渡り合える、対タイ人スキルが必要になる。
そうなると独身者、あるいは日本人もしくはタイ以外の外国人と結婚している夫婦がタイに長期滞在するとなると今は簡単に実行できるものでもない。富裕層だろうが、タイ移住は平等にビザという困難が待ち受ける。
ところが、ここ数年、あるビザが注目を浴びている。正確には「再び」注目を浴びている。それは『タイランド・エリート』だ。
2003年にスタートしたこの国家プログラムは、2014年に大きく内容を変更して以来、長期滞在プログラムとして人気が上昇している。メンバーには通常のビザとは大きく異なる特別な長期マルチプルビザが発給されることが大きな目玉だ。
このようにビザが厳しくなってきた現在、再びこのビザが注目され、資産がある人たちや、タイに長期滞在を希望する人々が利用し始めているのだ。
タイランド・エリートは簡単に言えば、様々な特典の恩恵を受けながら、期限を気にせずタイにいることができる長期滞在システムである。他国では投資家向けの制度やワーキングホリデーなどがあるが、タイはこのタイランド・エリートを利用することで誰でも長期滞在することが可能だ。
タイランド・エリートには8種類のタイプがあり、滞在期間は5年、10年、20年から選べる。入国時に20年のスタンプではなく、最大滞在期間は1年間。5年ごとにビザが発給され、最大で4回発給の20年滞在というわけだ。就労ビザ、ロングステイ・ビザ、配偶者ビザは場合によっては再発給が拒否されるが、これは権利を最初に得ているものなので安心感が違う。最大で1年間滞在を繰り返すことになるが、年に1回、日本に里帰りするために出国すればいいだけなので、条件は悪くない。
タイランド・エリートはネーミングからして想像できるように、タイを訪問する外国人対象の特別なプログラムだ。タイランド・エリートの入会金も安いものではない。一番下のグレードで60万バーツ(約200万円)。20年のものになると最大で200万バーツなので、実に660万円もかかることになる。
「なにはともあれビザが大変」
かつて日本がバブル経済で景気がよかったころは、中国や東南アジア諸国から出稼ぎに来る人があとを絶たず、また滞在超過や不法就労をする外国人も少なくなかった。当時は日本のビザも厳しかったことがかえってそういった不法な外国人を増やした一端だろう。一方、90年代や2000年代初頭の東南アジアはビザなんてあってないようなものだった。極端な話、なんとかなるものでもあった。
しかし、今はそうはいかない。かつての日本のようにビザが厳しくなっているのが現実だ。タイの移住に関して魅力的なこと、そして気をつけたい部分などを、在住20年のライターであるボク、高田胤臣(たかだたねおみ)が5回連載で紹介していきたい。
かつてはビザなしでも長期滞在が可能だったタイ
タイは日本人の居住者が多い。日本の外務省が毎年発表している海外在留邦人者数の統計ではタイは世界で4番目に日本人が多く暮らす国になっている。都市別ではアメリカのロスに続いてバンコクが2番目だ。
これだけ日本人が多いのは、タイと日本の政府レベルでの関係が良好であること、タイ人自身もわりと日本人に対して友好的であること、それからタイ文化が日本人にもとてもマッチしていて過ごしやすいということが理由になろう。2000年代に入って製造業の海外拠点が中国一点張りだった90年代を過ぎ、新たな進出先を摸索する中で注目されたのがタイだったことも大きい。
徐々に日本人が増え、日本人向けのサービスも始まる。そうして居住環境がよくなり、さらに日本人が増える。そういった循環の中でタイの日本人社会が拡大していった。先の在留邦人の統計ではタイより日本人が多い国はアメリカ、中国、オーストラリアになる。国土が広い国ばかりだ。タイは日本と国土面積は大きく変わらない(若干タイが広い)。その程度なのに、日本人がこれだけ増えているのは、いかにタイが移住、あるいは長期滞在に向いているかということだ。
ただ、この人気はなにも日本人に限ったことではない。欧米諸国、それからアジアでは韓国人からの人気も高く、長期滞在者は少なくない。ラオス、カンボジア、ミャンマーは日本人以上に多くが来ている。単純労働などのためにタイ政府もこの3ヶ国にはビザの発給要件を変えて対応しているほどだ。
こうして外国人が増加することで増えてくるのが外国人による犯罪だ。日本も今は外国人労働者を受け入れていることもあり、彼らの犯罪が目立ってきている。タイの場合は特に入国には審査がないくらいに簡単に入ることができるため、不良外国人も少なくない。タイ政府がいう不良外国人とは、まずビザなどを持たない長期滞在者、それから金を持っていない者、そして不法就労をする者だ。
彼らに対抗するため、タイ政府は年々ビザの発給条件などを厳しくしている。90年代の終わり、あるいは2000年代初頭はビザなしの入国で30日ごとに近隣諸国に出国し、とんぼ返りをして滞在期間をリセットすることもできた。バンコクだと長距離バスで3時間も揺られればカンボジアに出ることができる。だから、日帰りで滞在期限をリセットすることも可能だった。
こういったビザの期限をリセットする方法はいくつかあるが、総称でビザランと呼ぶ。タイ政府はビザランをする者はすなわち不良外国人とみなし、これを取り締まったり、困難にするように制度を改めてきている。
難しくなったビザ発給
タイ政府のビザラン規制の方法としては、ビザなしの出入国の回数を制限。年間に何回も出入国を繰り返す人には入国審査時に「次回の入国時にはビザを取ること」という指示をする。実際にその後入国できなくなることもあれば、ある程度期間を開ければ入国できるケースなどあいまいな部分は多い。
ただ、かつてと比べるとビザが厳しくなってきたのは間違いない。出入国などを管理するイミグレーションの審査も厳格になっている。以前と比べ、近年は手続きが厳格になってきたものの、一方では融通の利かない状況になっているのも事実だ。
もちろん、正当的に書類が用意されていれば長期滞在ができるので、これまでもちゃんとしてきた人にとっては環境が変わらない、いや、むしろよくなったと言える。ただ、初めてのビザ延長手続きにおいてはどうしても不備が出てきて、そう簡単に延長できない。
簡単に言えば、今、タイのビザは厳格になってきているということになる。極端に言えば、金銭なんてどうにだってなる。日本から送金することだって簡単だし、クレジットカードを使えば買いものも現金も手にできる。人から借りたり、推奨するわけではないが誰かの商売を手伝って日銭を稼ごうと思えば稼げる。とにかく、金はどうにだってなる。
ところが、ビザは今や非常に厳格になってきている。観光ビザでは何ヶ月も長期滞在はできないし、ビザなしの滞在で何度も出たり入ったりはほぼ不可能。長期滞在するには企業に入って、あるいは自分で会社を立ち上げて就労ビザを取得しなければならない。そして、取得したあともちゃんと売り上げがないとビザの延長は拒否される。
高齢者の場合、ロングステイ・ビザなどもある。年金を日本政府から得ている、あるいはそれに相当する収入や資産があれば、そういったビザで滞在することも可能だ。ただ、申請には様々な証明書がいるので、結構大変だ。タイのビザは今本当に難しいのだ。
2003年からあったタイランドエリート
ボクの滞在を例にすると、ボクは妻がタイ人である。そのため、タイ人配偶者向けのビザがあるので、それで滞在することが可能だ。このビザで労働許可証も取得できるし、婚姻関係が続く限りタイ国内で延長もできるので、就労ビザよりも長期滞在がしやすい。しかし、難点がある。それは、そもそもタイ人と結婚することが難しい。ちゃんとした出会いがあって、かつ配偶者の家族とも渡り合える、対タイ人スキルが必要になる。
そうなると独身者、あるいは日本人もしくはタイ以外の外国人と結婚している夫婦がタイに長期滞在するとなると今は簡単に実行できるものでもない。富裕層だろうが、タイ移住は平等にビザという困難が待ち受ける。
ところが、ここ数年、あるビザが注目を浴びている。正確には「再び」注目を浴びている。それは『タイランド・エリート』だ。
2003年にスタートしたこの国家プログラムは、2014年に大きく内容を変更して以来、長期滞在プログラムとして人気が上昇している。メンバーには通常のビザとは大きく異なる特別な長期マルチプルビザが発給されることが大きな目玉だ。
このようにビザが厳しくなってきた現在、再びこのビザが注目され、資産がある人たちや、タイに長期滞在を希望する人々が利用し始めているのだ。
タイランド・エリートは簡単に言えば、様々な特典の恩恵を受けながら、期限を気にせずタイにいることができる長期滞在システムである。他国では投資家向けの制度やワーキングホリデーなどがあるが、タイはこのタイランド・エリートを利用することで誰でも長期滞在することが可能だ。
タイランド・エリートには8種類のタイプがあり、滞在期間は5年、10年、20年から選べる。入国時に20年のスタンプではなく、最大滞在期間は1年間。5年ごとにビザが発給され、最大で4回発給の20年滞在というわけだ。就労ビザ、ロングステイ・ビザ、配偶者ビザは場合によっては再発給が拒否されるが、これは権利を最初に得ているものなので安心感が違う。最大で1年間滞在を繰り返すことになるが、年に1回、日本に里帰りするために出国すればいいだけなので、条件は悪くない。
タイランド・エリートはネーミングからして想像できるように、タイを訪問する外国人対象の特別なプログラムだ。タイランド・エリートの入会金も安いものではない。一番下のグレードで60万バーツ(約200万円)。20年のものになると100万バーツなので、330万円かかることになる。
20年で入会金100万バーツのスペリオリティーエクステンションを計算する、330万円÷20年は16万5千円/年だ。配偶配偶者ビザは延長費用は7000円程度であるもの、申請3ヶ月前から40万バーツ(約132万円)が入っている預金証明を示さないといけない。そう考えると、20年のタイランド・エリートの方が断然お手軽にとなる。
16万5千円を365日で割ると、1日当たり480円程度。たったこれだけでタイになんのコネがなくても長期滞在できるのだから、350万円が急に安く見える。ほかにもタイランド・エリートは様々な特典もあるので、それを利用するとよりコストパフォーマンスは向上する。2021には1万人を大きく超える世界中からのメンバーが利用しているこの長期滞在プログラム。今後も利用者は増え続けることだろう。
17万5千円を365日で割ると、1日当たり450円程度。たったこれだけでタイになんのコネがなくても長期滞在できるのだから、330万円が急に安く見える。ほかにもタイランド・エリートは様々な特典もあるので、それを利用するとよりコストパフォーマンスは向上する。2021年には1万人を大きく超える世界中からのメンバーが利用しているこの長期滞在プログラム。今後も利用者は増え続けることだろう。
●執筆者紹介
高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。