第8回「インターナショナル校に通わせるのもひとつの手?」
家族とタイへの移住を計画するとき、子どもたちへの教育はしっかりと考えておかなければならない。いくつか選択肢がある中で思いつきやすいのは、インターナショナル校(以下インター)に入れることだ。日本人学校もタイ人から見ればインターになる。ほかにもシンガポールやフランス、台湾など、各国の文化や教育水準に従った学校もある。しかし、ここでインターというのは、主に英語教育で、欧米の世界的に認められた教育プログラムで授業を進めるところと定義しておきたい。
ここでは、学齢期の子どもを持つ日本人家族がタイに移住した場合、インターを選択するとどうなるのかをシミュレートしてみよう。
メリットは地方都市が居住地の候補になる
インターの最大メリットはネイティブな英語の修得にある。国際的な教育プログラムは英国式か米国式が多いと見られ、いずれにしても英語で授業が行われる。学校によってはタイ人の比率が30%以下だ。そのため、休み時間も英語、放課後も英語。ネイティブにならないはずがない。
タイの芸能人は富裕層の一族ばかり。最近はだいぶ変わってきたが、90年代や2000年代初頭のアイドルはほとんどがハーフか富裕層の子どもだった。バンコクはなんだかんだ遊ぶところが決まってくるのでよく芸能人を街中で見かけたものだが、歌やドラマはタイ語を使うものの、彼らはみなインター出身のため、日常会話が英語だった。それくらい、英語が身につくのである。
タイ政府は学校認可の際にタイについての教育やタイ語学習の授業を用意することを指導しているらしい。そのため、インターとはいえ、英語だけでなくタイ語も多少は身につくので、その点もメリットではある。
それから、インターはタイ全土に200校あるとされる。そのうちの160校くらいがバンコクとバンコク郊外にあるとはいえ、地方の大きな街ならインターがだいたい数校はあるので、住まいをバンコクに置く必要がない。たとえば北の古都チェンマイ、世界的ビーチリゾートのプーケットなど、好きなところに拠点を構えることが可能だ。日本人学校だと移住者の場合はバンコク校しか選択肢がないので、自由度が違う。
ただ、インターは日本と同じで、学費が高い。日本の公立校から編入するとなると、目玉が飛び出るどころではない。バンコクの有名どころで見ると、安いところで年間45万バーツ前後、高いと100万バーツ超だ。つまり、安いところでも年間158万円、高いところでは350万円もかかる。幼稚園から高校まであるところもあり、一貫で通わせると総額で3500万円はかかると見た方がいい。
インター卒だと進学先がかなり限られてくる
インター卒だと進学先がかなり限られてくる
デメリットは高額の学費のほか、進学の問題もある。日本人学校だと中等部までしかないので、高校受験でまずは家族がバラバラになる可能性が出てくる。一方、インターは高校3年生まである学校も少なくないので、少なくとも大学進学までは家族で過ごすことが可能だ。
英国式や米国式の授業は英語を習得でき、かつその英語で自分の意見を述べたり聞いたりする授業も多いので、積極性が身につく。一方、日本人家族の場合、日本に帰国するとどこに進学するのか頭を抱えることになる。年齢的にまだ学齢期であれば日本のインターに入れることも可能だ。ただ、学費はやっぱり高いし、その先の進学を数年後に改めて考えなければならない。
日本での大学進学は帰国子女の枠で試験を受けることは可能だ。ただ、いずれにしても授業を受けていけるだけの日本語は事前に身につけていなければならない。いくら両親が日本人でも、インター通いだと日本語に接するのが家庭内だけというケースが多くなる。すると、普通に話せると思っていても、社会に出ると意外と語彙力がないということもあるのだ。
ちなみにだが、ときに2ヶ国語をネイティブ並みに話せる人を見かける。たとえば日本語とタイ語だと、多くがタイ人と日本人の国際結婚夫婦を親に持っている。そういったハイレベルなバイリンガルを何人も取材してボクが見つけた共通点が1つある。それは、家庭内と外の線引きがかなりはっきりしている家で育った人であることだ。タイに住んでいる場合、タイ語は外に溢れているので、家庭内では日本語だけしか使わない。国際結婚の場合はタイ人に完璧な日本語を求めなくていい。とにかく外と中はしっかりと分ける。そうすると2ヶ国語が完璧なバイリンガルになるらしい。
日本人夫婦がインターに通わせると同様の環境になる。語彙を増やすのはまた別の問題だが、家庭内は日本語だけにすれば、子どもは両方をネイティブに発音するバイリンガルになる可能性が高い。
欧米諸国に留学を考えているなら最初からインターがいい
タイに移住したある家族の話だ。日本人夫婦で、娘さんは当時高校生くらいだったはず。中学3年生まで日本人学校に通っていたが、日本に進学せずバンコクのインターに編入した。日本人学校卒業後の進路としてはかなりレアケースではある。娘さんはやはり最初の数ヶ月は苦労したようだ。
欧米の学校は日本の学校と違い、生徒が意見を述べたり議論するような授業を重視する。彼女はそれに慣れず、かつ英語もうまくなかったのでかなり辛かった。しかし、若さはときにすごいもので、自然と英語が身について、半年もせずにディベートも苦にならなくなったという。まるで性格まで変わったようだと親御さんは言っていた。
インターに通うことで、欧米式ではあるが、英語圏で通用する学力や語彙力、立ち居振る舞いが身につく。そうなると、間違いなく日本の学校への進学はかなり厳しい。しかし、逆に言えば、日本以外ならいつでも行けるという力を子どもは持ったことになるのではないか。
進学はなにも日本だけではなく、選択肢を地球上に広げればいい。それこそ英国、アメリカ、カナダでもいいし、日本人に人気のあるオーストラリアやニュージーランドも行ける。オーストラリアなどはタイから近いので、単身留学させてもいいかもしれない。
学費はかかるけれども、インター校で子どもたちが身につくものは大きい。知り合いの方はバンコク日本人学校出身で、アメリカに留学経験があり、その後金融機関に勤め、現在は年収数千万円と見られる。インターの学費は高いが、子どもの将来への先行投資と考えれば、案外コストパフォーマンスは悪くない。
子どもを留学させることを考えた場合、たとえばだが、親も子どももまずは『タイランド・エリート』でタイに移住をし、親はそのままタイに残留。子どもはタイランド・エリートを保有したまま留学すれば、実家があるタイにはいつでも戻ってこられる。そういう使い方もひとつの手なのではないだろうか。