第5回 フライトが安くなってタイが狭くなった今

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 国内線は当然ながら昔からあったが、タイ航空とバンコクエアウェイズくらいしか選択肢がなかった。料金が高く、普通の旅行者にもなかなか手が出ない。しかし、2000年代に入ってからタイにも格安航空会社(LCC)が登場。これらの路線の充実がタイ人の旅行スタイルさえも変えてしまった。ここでは国内移動手段の中でも空路についてクローズアップしたい。

国内便が格安航空会社の出現で便利になった

 LCCが登場してまだそれほど浸透していなかったころは、空路移動はタイのお金持ちか外国人が利用することが多かったこともあって、一般層の顧客獲得には至っていなかった気がする。それがネット予約ができるようになり、タイ人の所得も上がってきて利用者が増えたことでだいぶ変わり、2010年ごろからLCCも十分に利用できる価値が出てきた。
 さすがにチェックインは1時間前など早くに動き始めるデメリットはあるが、あっという間に現地に着く点はいい。預け荷物がなければ空港内のどこかにある自動チェックイン機で予約番号などを打ち込めば搭乗券が印刷されてくるので、並ばないで済む。人気になったせいでチェックインカウンターは混むので、この自動チェックインは便利だ。
 気をつけたいのは、路線によってはプロペラ機など小さい機体があること。これに当たってしまうと預け荷物もサイズ制限が出てくる。事前に使用機体は確認しておいた方がいい。
 もうひとつ気をつけたいのは、LCCのバンコク発着は基本的にドンムアン空港ということ。スワナプームは外国のLCCで、国内LCCはドンムアンになる。この発着場所を間違えると大変だ。日本でいえば、スワナプームは千葉県市川市、ドンムアンは埼玉県大宮にあるくらい違うからだ。

バスと空路ではどちらがいいか

LCCは場合によっては長距離バスよりもずっと安く移動できる。まずプロモーション料金が異様に安い。最安では100バーツ以下もある。実際には手数料諸々でそうはならないが、だいぶ安いのは間違いない。とはいえ、プロモーション価格はなかなか取れない。そういったハイパーなプロモーションではなく、通常の割引価格もある。
ボクの体験なので今は料金は変わっているかもしれないが、たとえば東北部のウドンタニーからLCCでバンコクに飛ぶとき、ボクはすべて込々で片道700バーツ前後の割引期間にチケットを購入する。もしVIPバスを使うと600バーツ台くらいだ。ということは、料金的にはほぼ同じだ。そうなると、所要時間を考慮すれば、フライトは1時間、バスだと7時間くらいなので、コストパフォーマンスは断然LCCになる。
バンコクから遠い南部になればなおのことそのコスパはLCCに軍配が上がる。とはいえ、これは旅行のスタイルによる。時間をかけてゆっくり回ることが好きな人は、バスで行くのもおすすめだ。バスは予約せずに、当日バスターミナルに行って、時刻表を見て選択するなどの、都度どうなるかわからない楽しみがある。陸路では景色の変化がおもしろいのだが、なぜかタイは空から見下ろすとどこもそんなに変わり映えがしなくて、窓外の楽しみはない。だから、スタイルによって選べばいいのではないか。

国内便を利用する際の注意点

 LCC登場時は、LCCのビジネスモデルが存在しなかったこともあってか、とにかくサービスがひどかった。今はLCC各社の競争も激しく、そのあたりはかなり改善された。しかし、今は安い価格に釣られて乗ってくる乗客がひどかったりする。
タイ人はまったく問題なくて、欧米人にひどい人が紛れ込んでいることがある。列に並ばない。機体がまだ停止していないのに立ち上がり、上のバゲージから荷物を取ろうとする。ボクは一度その行為で転倒し、ほかの乗客と衝突しているのを見た。機体が大きい分、ゆっくりに見えてもブレーキでかかってくる運動エネルギーは大きいのだ。
 それから予約キャンセルやフライト・キャンセルもレガシーキャリアより多い。予約キャンセルはシステムの問題など。最近あったのは、乗り放題チケットが販売されたのだが、販売元が同じLCCではあるものの海外拠点だったため使えないという問題が一部で発生した。レガシーキャリアだと空席があればわりと融通を利かせてくれて移動可能だが、シートごとに値段が違うLCCは勝手に移ると大問題にもある。
 フライトのキャンセルもしばしば。いずれもLCC側に問題があれば、基本的に払い戻しの対象となる。他方、こちらの都合でフライトを変更する場合は手数料やキャンセル料がかかってくる。ただ、キャンセル料を別途払うというより、すでに払い込んだ全額を持って行かれてしまうという感じだ。
フライト変更手数料には要注意。時期や変更のタイミングもあるが、だいたいのケースでは手数料がフライト料金と同額になる。たとえば1000バーツで買い、変更すると1000バーツの手数料がかかる。だから、まずは予約変更前に新規購入の料金をチェックし、変更、キャンセル、買い直しのいずれが得かを見極めた方がいい。

日帰りできるバンコクの船旅

 タイはバンコクを含め、船に乗る機会も多い。たとえばチャオプラヤ河は渡し船で対岸に渡ったり、海辺では島に渡るために利用する。バンコク都内では、路線バスのように交通機関としても利用される。
日本人が多く住むエリアに関係するのがセンセーブ運河のボート。西は旧市街にある民主記念塔近辺から、かつて伊勢丹があったデパート『セントラルワールド』を経由し、東はアソーク通り、トンロー通り、エカマイ通りを通って、AKB48の系列であるタイのアイドルグループ「BNK48」が劇場を持つ商業施設『ザ・モール・バンカピ』まで行ける。
 運河ボートも基本的には手を挙げて合図をすると船着き場に止まる。新型は真ん中あたりに階段があるが、旧型は屋根の横のロープを掴んで跨ぐように乗りこまなければならない。乗り降りで転落しないように注意したいところ。実際、年に何人か転落するので、とにかくボートが船着き場に完全停止するまで降りないように。
 マナーがあって、端っこに座る人は目の前にあるロープを航行中に引っ張っておくこと。すると、サイドのシートが上がり、水しぶきを避けてくれる。センセーブ運河の水はお世辞にもきれいではないので、そのシートで水しぶきを避けるのだが、その仕事は端に座った乗客の役目。
 料金は10バーツくらいからのスタートで、行先の距離による。乗りこむと乗務員が来るので行き先を告げれば料金を言ってくる。席の真ん中に座った場合、隣の人にお金を渡すとリレー形式で乗務員に渡り、切符とお釣りがまた戻ってくる。切符は一応取っておくこと。東西いずれかから来ても、セントラルワールドの船着き場で一度乗り換えが必要になる。そのときに切符がないと再度運賃を払う必要が出てくるからだ。
 チャオプラヤ河のエクスプレスボートもわりと使える。南はBTSサパンタークシン駅から、北は隣接するノンタブリ県かいくつかの船はその先のクレット島に行ける。この島はチャオプラヤ河に浮かび、陶器で有名なデイトリップの観光スポットになる。サパンタークシン駅からは同型の船で、近くのナイトバザール『アジアティーク』にも行ける。
 エクスプレスボートはすべての船着き場に止まるタイプと、いくつか飛ばしていくタイプがある。見分け方は船首の旗の色で、各船着き場にルート一覧があってそこで確認できる。10分おきくらいに来るが、王宮(エメラルド寺院)近くなどは外国人が多くてちょっと待つこともある。
 チケットは船着き場で買えるし、乗ってから路線バスのように車掌が来るので、そこから購入することもできる。近年は航行中に後部のデッキには立てなくなったので、中の座席か後部のスペースで景色を見ながら乗ることをおすすめする。エクスプレスボートはバンコクを違った角度から見られるので、結構おもしろいのでおすすめだ。
 このようにタイ、そしてバンコクにはいろいろとおもしろい交通機関がある。生活の足での利用にも使いこなしたいし、休日のデイトリップにあてもなく乗るのもまた楽しい。いろいろな利用方法があるのが魅力なのである。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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