第2回目「タイの賃貸不動産にはどんなスタイルがある?」
タイ移住の際に絶対に必要なのは住まいだ。よほどの富裕層ならばホテル住まいを選択して暮らす方法もあるが、普通に考えると自分だけのプライベートな空間は必要だろう。そこで、今回はタイ(特にバンコク)で借りることができる物件のスタイルを見ていきたい。それぞれに様々なメリット・デメリットが存在する。
タイの物件スタイルを大別すると…
タイの賃貸物件には以下の形態がある。これらのメリットデメリットを簡単に紹介していく。中心になるのは5タイプだ。それぞれに年数による劣化、大衆的な家賃設定から高級物件、立地条件など様々な事情が絡んでくる。
■アパート
アパートはバンコクの下町エリアにある、タイ人向けの賃貸物件だ。日本人が借りる場合は6000バーツ(約21000円)以上を目安にすること。これより安いと水場が共同だったり、管理が行き届いていないので、火災や盗難などの問題が出てくる。そもそも、安い料金設定は外国人が入ることができないこともある。
家具はベッドの枠、クローゼット、ソファーくらいはある。テレビや冷蔵庫はレンタルが多い。そのため、自分で買うべき大物の家具はベッドのマットくらい(これもついているアパートもある)。プラスして冷蔵庫やテレビを自分で買う。基本的にキッチンはないと見た方がいい。ガスも不可なので、電気調理器を使う人が多い。
家賃は高くても1万バーツ(約35000円)台。エアコンのあり・なしで同じ物件内でも家賃が大きく異なるが、6000バーツ超ならだいたいエアコンつき。大型のアパートはクリーニング、コインランドリー、ミニマート、小さな屋台が併設されていて便利。
しかし、仲介業者は扱わないので、探す場合は自分の足でエリアを見て歩き、直接管理事務所に交渉することになる。人気アパートはウェイティングリストがあってなかなか入れないことも。
■コンドミニアム(マンション)
分譲マンションのそれぞれのオーナーが店子に貸している形態。中心地から離れればキッチン付きで1.5万バーツからあるが、BTSプロンポン駅に近いエリアだと日本円で月100万円超もある。日本人は駐在員クラスだと月5万~10万バーツに集中する。『タイランド・エリート』保有者もこのあたりの価格帯を相場に考えるといい。広さはスタジオタイプから複数の寝室があるものなど様々。新しいコンドミニアムはやや狭く、昔のコンドミニアムは広い傾向にある。
ソイの奥のコンドミニアムだと管理事務所がトゥクトゥクを所有し、BTSの駅まで送迎してくれることもある。タクシーも事務所が呼んでくれるなど、奥まった場所にあっても不便は感じない。
主に仲介業者に頼んで物件を紹介してもらう。ただ、物件オーナーは個人のため、なにかトラブルがあってもすぐに対処してくれないなど、人によって全然違う。しかし、プールがあったりジムがあるところもあって、生活環境は豊かなケースが多い。外国人でも購入可能なので、買って自分で暮らすか賃貸に出すこともできる。
古いコンドミニアムは全棟がワンオーナーで、高級アパートのようになっていることもある。
■サービスアパート
サービスアパートとは、1棟丸々がワンオーナーで管理され、ホテルのように部屋の掃除などのサービスが家賃に含まれる。掃除・洗濯が無料の感覚で利用できるので、単身者にはかなりいい。個人経営、不動産会社経営、ホテルの一部など、経営スタイルも様々。ホテル系だと家賃が一番高いがサービスは抜群。
新しいサービスアパートも稀に登場するが、古いビルも少なくない。ただ、古いビルはわりとゆったり設計で、広くて重厚感のある部屋であるケースが多い。
■タウンハウス
タウンハウスはタイ式の長屋。2階から4階建てが多く、隣接する物件と壁を共有する。下町や郊外に多い。基本的にはコンドミニアムと同じで分譲しているため、壁は共有であるもののオーナーは土地と建物を所有する。外国人は土地を買えないので、タウンハウスは個人から直接借りることになる。
タウンハウスと次項の一軒家は、コンドミニアムの電気だけでなく、調理器具にガスも使えることが多い。料理好きもタウンハウスや一軒家がおすすめ。
新しいタウンハウスは設計コンセプトがあって住居用や事務所用などがある。昔からあるタウンハウスは、1階を食堂や車整備工場などにすることが多く、1階だけ天井が高いところが少なくない。日本人で借りる人は広い家に住みたい、犬を飼いたい、それから事務所あるいは職場兼自宅のためという事情が多い。家賃は一軒家よりやや安いことが多い。
■一軒家
外国人向けはめったにないという印象。まず都心にはほぼないので、スクムビット通りでいうと、BTSエカマイ駅から東の方、BTSモーチット駅から北、あるいはチャオプラヤ河西岸の方で探すことになる。広くていいのだが、治安や洪水の対策を考えなければならない。
近年はムーバーンと呼ばれるプロジェクト開発が増えていて、柵に囲まれた中に複数の一軒家が造られる。造成地は完成後も管理会社に管理されるので、誰でも自由に出入りすることができるわけではなく、安全面は確保できる。ただ、開発地はだいたい郊外なので、車が必要。
エリアごとの治安はこんな感じ
特に初心者にとっては郊外に行くほど治安を含めていろいろと不安要素が出てくる。まずは都心から慣れていくようにしたいところだ。
バンコク近郊
■BTSプルンチット駅~ナナ駅
歓楽街の真ん中で、騒々しいと感じる物件が多い。治安は昼間は問題ないが、夜はトラブルが少なくない。
■BTSアソーク駅~エカマイ駅
日系企業駐在員などが多い。ソイの奥でも送迎トゥクトゥクがあるなど不便はない。スクムビット通りソイ23は歓楽街だが、奥は静かで古い大型高級アパートが見られる。ソイ39、トンロー奥は日本人ばかりのコンドミニアムもある。日本人学校の送迎バスの範囲。奥は夜間は暗くて出歩くにはタクシーが必須。場所によっては冠水する。
■BTSプラカノン駅~オンヌット駅
中級コンドミニアムに暮らす日本人が増えている。スクムビット通り寄りには和食店も多い。奥にはタウンハウスや一軒家もある。治安は変な時間帯に出歩かなければ問題ない。
■BTSオンヌット駅以東
コンドミニアム、タウンハウス、一軒家と選択肢も多い。日本人が住みやすいのはスクムビット通り寄り。ウドムスック(スクムビット通りソイ103)などの大きなソイなら奥でも便利。
■BTS戦勝記念塔駅~サパンクワーイ駅
BTS戦勝記念塔駅近辺はタイ人学生向けアパートが多い。最近はコンドミニアムも増えた。以前は日本人現地採用者にも人気で治安に不安はない。ただ、反政府集会の集合先がここになるケースが多いので注意。戦勝記念塔駅からサパンクワーイ駅間はセレブ物件もあって芸能人も多く、洒落たカフェなどが点在する。
■モーチット以北
ウィークエンドマーケットがあるBTSモーチット駅、MRTチャトチャック駅から北は下町。治安はあまり悪くはないが、タイ語ができないと暮らしにくい。住むなら駅近辺。
■ラチャダーピセーク通り
地下鉄MRTラマ9世駅からスティサン駅辺りは治安のいいソイ・悪いソイがある。ソイの奥は不便。大通りならコンドミニアム、奥だとタウンハウスや一軒家があり、家賃は都心ほど高くない。
■シーロム通り
駅に近い物件は便利。大通りから離れると昔ながらの下町で、タイに慣れていない人には難しいかもしれない。
■ヤワラー
いわゆる中華街。地下鉄の延線部開通で近辺の土地開発が進む。夜遅くまで飲食店がやっていて便利だが、裏通りは治安にやや不安。道路が狭く慢性的な渋滞があり、ビジネスマンには向かない。
■チャオプラヤ西岸
BTSや地下鉄MRTがチャオプラヤ河西岸にまで延び、駅近辺ならコンドミニアム、奥ならタウンハウスや一軒家もある。バンコク都心から見て対岸に当たるため、治安は不安。2011年には大洪水で水没したエリアなので、水はけも要チェック。
地方都市
■チェンマイ
ロングステイヤーに人気のタイ北部の古都。ほどよく都会で和食店も多く、かつ自然に囲まれていて気候がいい。物件はアパートやタウンハウス、一軒家が中心。バンコクよりずっと安い。ただし、在住日本人コミュニティーが小さく、日本人同士の人間関係に息苦しさを感じる人が少なくない。
■パタヤ
世界的に有名な歓楽街を抱え、ファミリーには向かない。海岸から離れれば普通の地方の街並みになるが、タイ語しか通じないし治安に不安が残る。海沿いは高級コンドミニアムが多い。
■シーラチャー
パタヤより少しバンコク寄りの港町で、日本人居住者が多い。和食店も無数にあり、かつ日本人学校分校もある。地方に暮らしたいけれど日本人コミュニティーを近くに感じたい人に向く。物件はあらゆるタイプがある。
■プーケット
世界的に有名なビーチリゾート。ビーチは物価が高い。一軒家やタウンハウスを借りる外国人が多い。バイクか車がないと暮らせないので注意。
■ナコンラチャシマー(コラート)
東北部の玄関都市。タイで2番目に大きな県で、中心地に巨大デパートが複数。和食店も増加。物件は一軒家かタウンハウスが中心。治安は決して良好ではないので、タイに慣れていないうちは避けるべき。
エリアの特徴はざっとこんなところだろう。まずは都心から暮らし始め、何ヶ月か様子を見てからにするべきだ。それもコンドミニアムがおすすめ。たとえばタウンハウスだと壁を共有しているので隣人との距離感が近いため、タイの習慣をある程度把握していないとトラブルの元になる。
タイが逃げることはない。ゆっくりと住まいの良し悪しを決めていくといい。
高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。