第4回「富裕層なら不動産投資もひとつの手?」

 これまでは賃貸物件を中心に紹介してきた。『タイランド・エリート』を取得する人の中には家賃なんか払わず、住まいを購入したいと考える人もいることでしょう。実際、それも可能だ。ただし、タイは原則的には外国人が土地を購入することができない。個人で購入できる不動産はコンドミニアムの分譲までになる(複数所有することは可能)。

 ここでは経済的にやや豊かな人がタイで不動産を購入してそこに住んだり、投資用に利用する場合について簡単に紹介していく。

タイは不動産の法的な縛りが多い

 まず、当然の前提を書いておくと、たとえばコンドミニアムを所有し、家賃収入が発生している、さらに売却時に利益が出た場合、タイでも税金を支払う義務が生じる。この連載はタイに移住することを前提にしているので、不動産所有者もタイにいると仮定しているが、日本に住んでいる場合は日本での申告なども必要になる。そのため、それなりに知識もいることを忘れてはならない。

 また、不動産投資による収益はややグレーでもある。不動産業者としての認可を受けていないことが一般的なため、タイ国内でも外国人不動産投資家の収益が議論となっている。

近年では物件そのものや、物件の一部をネットで貸し出す民泊が世界的に流行しているが、タイではホテル業界から反発があり、違法であるという見解になっていて、実質、民泊は不可能と考えるべきだ。月極の家賃収入なら問題はないが、収益の金額によっては課税対象となり、やや面倒になる。たとえタイランド・エリートの会員であってもタイ国内でなんらかの収入を得る場合には認可や税金などの関連法規を事前に調べておくことをおすすめする。

 そう考えると、自身の資産でコンドミニアムの部屋を購入し、自分が暮らすというのであれば、誰にとがめられる必要もない。ただし、購入はローンは組めず、タイ国外から外貨で一括送金が基本的な前提になる。近年は建設ラッシュで、スクムビット通りのBTS沿線はどこもかしこもコンドミニアムの建設現場になっているほどだ。様々なタイプや広さが出ているので、選択肢は幅広い。タイ人だけでなく、外国人投資家も注目する市場でもある。

 それから、土地は外国人の個人購入はできないが、法人名義なら可能だ。中には個人の資産で土地をどうしても買いたくて、親しいタイ人の友人に頼んで名義を借りて購入することもある。しかし、これは絶対にやってはいけない。どんなに信頼できる人でも魔が差すことはある。これで土地を奪われても登記上に違法性がないため、名義人の方が立場が強い。焦ってそういうことはしてはいけないということだけは憶えておいてほしい。

不動産バブル到来中? のバンコク

 タイのコンドミニアムを購入する手順は新築と中古で異なる。ざっと買い方を見ていこう。

 新築は建設現場あるいはその近くにあるモデルルームに行く。タイではまだ建設が始まる前に売りに出され、投資ブームの今はさら地の状態でも完売となるケースが多い。要するに、モデルルームを見る、あるいはカタログやレイアウトプランを見るだけで買ってしまうのだ。

 この状態ではまず頭金分を完成するまで一括か分割で支払う。建設会社はここで資金調達をするわけだ。そして、引き渡しが済んだら、20年30年のローンで残りを払っていく。

 中古の場合、購入を決めたら物件オーナーと共に各県あるいは地域にある土地局に行き、名義を変更してもらう。

 近年はとにかく投資ブームの建設ラッシュで、昔の日本のバブル時代を彷彿とさせる。BTSプロンポン駅周辺は特に地価が高く、コンドミニアムの平米あたりの単価が異様に値上がりしてしまった。そのため、物件そのものの値段が日本円で億を超えている。

 日本人にはあまり縁がないが、バンコク郊外ではムーバーンと呼ばれる住居集合エリアが多数造成されていて、新興地区においては郊外であるにもかかわらず何億円という値段設定になっている。最近は付加価値をつけるため、日本の不動産デベロッパーと手を組んでいるケースも少なくない。日本的なモダンさや耐震性などを謳って、顧客にアピールしているようだ。そして、こういった億超えの物件はなんと高い方から順に売れているという。

 ここまで高いともはや家賃収入でペイできるようなものではない。あくまでも購入者が自分で暮らす用の物件としてニーズがあるようだ。

気をつけたいのは投資詐欺や煽り文句

 昔でいう億ションが散見されるバンコクで、ときに日本のメディアなどではタイやほかの東南アジア諸国での不動産投資を勧めるような記事を見かける。しかし、これは鵜呑みにしてはいけない。海外には日本とは違う事情があるので、それらを把握しないと危険極まりない。

 たとえば、バンコクの高額物件で高額家賃収入を得て元を取れるのは、実はスクムビット通りソイ24だけだと言われている。あるいはBTSプロンポン駅、トンロー駅近辺ならまだ可能かもしれないといった具合で、それ以外はまず厳しいと多くの専門家が言う。

 連載2回目にエリア情報を少し紹介したが、スクムビット通りのBTSオンヌット駅以東、モーチット駅以北、チャオプラヤ河西岸は今まさに開発中、あるいはこれから開発される地域だ。そこを先取りして物件購入をしても、この地域が中心地と同じだけ地下が上がるのは何十年も先のことだ。タイは常夏の国で、かつ地震がないので、建物そのものの耐久性が日本のそれよりも低い。地盤も緩く、建物は築数年でひびが入ってしまう。何十年も待てば、今度は原価を回収できるだけの家賃設定ができなくなる。

 ある不動産会社は、都心の物件を購入して定年退職までは賃貸にし、その後自身がタイに移住する際の住まいにすればいい、と宣伝して多数の顧客を得ていた。これはもう10年近く前の話で、実際に当時ならできた。しかし、日本円で億を超えるようになった今はそれもリスクが高い。

これに加えて投資詐欺も増えている。タイだけでなく東南アジア各国に見られるようだが、恐るべきはその国の人ではなく、日本人が日本人を騙すケースが多い。だから、基本的にいい話だけをするような人、おいしい儲け話はよく調べてからにするべきだ。

 そもそも、タイに住んでいないと新築の情報はなかなか巡ってこないのが現実だ。タイ人やほかの国の投資家が建設が始まる前に押さえてしまうので、最も安く手に入れるタイミングがなかなかない。そのため、完成時にはすでにプレミアム価格になっていることが圧倒的に多い。

しかも、転売目的が多いため、完成しても入居者が入らず、暗い雰囲気の建物になってしまい、余計に資産価値の現実的な値と実際の取引額がかけ離れる。もっと言えば、新築時の値段も上がりすぎてしまい、今では完成前に破綻して銀行の差し押さえ物件になることもよくあるそうだ。

逆に言えば、銀行の競売物件を調べたり、モデルルームにあえて行って、早急に手放したい人から感染直前の物件を買い叩くというテクニックもあるようだ。とにかく、タイにおける不動産投資は意外に難しいので、安易に考えないことをおすすめする。

それでもバンコクのコンドミニアム購入が魅力的な理由

 いろいろ難しさはあるが、タイのコンドミニアムなどの不動産はいまだ魅力があるとボク個人は思う。あくまでも投資ではなく、自分で使う場合の話だ。

 というのは、都心からちょっと外れれば、電車もタクシーも走っているエリアでさえ1000万円レベルの新築物件がいくらでもある。同時に、タイには内装業者もたくさんあり、モダンな家具メーカーも少なくない。最近では個人ビルダーの家具店がネット上で増えてきているので、洒落た家具も安く手に入る。

 つまり、安く物件を手に入れ、日本よりもずっと安価に内装に凝ることもできる。これはとても大きなメリットだと思う。

また、タイは食事処が多い。コンドミニアムや住宅街など、人が集まるところには必ず屋台や食堂、コンビニがある。気に入った住まいに、便利な店の数々。これはタイで暮らすことの大きな魅力だと思うのだ。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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