第5回 短期なら海外旅行保険でも大丈夫?


タイで保険に加入した方が、タイで長期滞在する場合に有利なことが多い。とはいえ、「タ
イランド・エリート」のメンバーの中には短期滞在だけを繰り返してタイ生活をエンジョイし
たり、タイと日本の二重生活をしたいという人もいることだろう。
そんな人はタイ国内でタイの保険に加入することは難しい。外国人の保険加入の条件はタイ
に滞在していることで、その期間は商品や保険会社によってまちまちだけれども、3ヶ月や半
年は滞在実績がないと契約できなかったりする。
こういったケースでは空港で加入する海外旅行傷害保険(あるいは海外旅行保険)や、保有
するクレジットカードに付帯する海外旅行保険などを利用するしかない。
海外旅行傷害保険は考え方によっていい・悪いがある
 短期滞在なら海外旅行傷害保険はわりといい商品ではあると思う。保険料が高額になるのが
デメリットだが、タイ国内なら歯科関係の治療以外ならだいたいキャッシュレスで利用できる
。しかも、バンコクの大手病院は入院費が高級ホテル並みに超高額だ。それがカードを提示す
るだけで利用できるのだから、かなり便利だろう。
 ただ、保険というのはまだ起こっていない未来の自分を守るためのものであり、高額の掛け
金を払っても、それがただの掛け捨てになることは多い。いや、その方が普通だ。
20年くらい前は持病を隠して海外旅行保険をかけ、タイで治療する人もいた。また、タイの
病院も悪質なところは治療費を上乗せして保険会社に請求するなど、本当にひどい状態だった
。ある日本人は、タバコの不始末でアパートの部屋を真っ黒こげにしてしまい、修理費を払え
ないからということで大家と相談し、一度日本に帰って保険に加入し、それで支払ったという
話を聞いたことがある。これはおそらく生命保険ではなくて、損害保険関係だとは思うが、当
時は海外旅行傷害保険だと聞いた。
こういった事例はまだ日本とタイのネットワークがしっかりと構築されていなかったり、日
本の保険会社の隙を突いた犯罪が横行していたころのことだ。今はこんなことをすればタイ警
察も黙ってはいないし、日本の保険会社もしっかりと調査するのでできない。ボクの印象では
、ボクが初めて海外旅行に出かけた1998年は言うほど海外旅行傷害保険の保険料は高くなかっ
た気がする。思うに、こういう輩がいたことで、今の海外旅行傷害保険は高額になったのでは
ないか。
クレジットカードの付帯保険にはどんな魅力が?
 クレジットカードの旅行保険や物損の付帯保険も、滞在期間が短い場合は適用される。短期
滞在ならこれでもいいのではないだろうか。
 ただ、昨今の新型コロナウィルスの悪影響で、個人の海外旅行や海外出張が全般的に縮小し
ている中、クレジット会社各社は付帯保険の適用条件をどんどん変えてきているそうだ。これ
までは特に事前申請だとか手続きをしなくても、海外にいる間になにかあれば、付帯保険が自
動的に適用になったというカードも少なくなかったはず。
しかし、今が滞在期間や出発時の航空券、空港までの交通機関、もしくは滞在先の国の交通
機関の支払いをカードで行わないと適用されない会社も出てきているようだ。滞在国の交通機
関というと、タイの場合はどこでカードを使うのかと思ってしまう。国鉄はそれほど高くない
ので、普通は現金払いだ。ただ、バンコク・チェンマイ間の寝台特急は高額だし、あるいはタ
イ国内の飛行機移動ならカードを切ることもあるだろうが、でも結局これくらいしかない。バ
スやタクシーでカードを使うことはまずできないので、付帯保険の条件を満たすことがタイで
は結構難しい気がする。そうなると、付帯保険が使えなくなるのではないか。
この条件変更はカード会社によってかなり違いが出てきているようなので、2020年21年と海
外旅行に出かけられなかった方は事前に条件諸々をチェックしておいた方がよさそうだ。
日本の国保も使えないことはない
 考え方によっては保険に加入しないというのもひとつの選択肢だ。ケガもしない、病気もし
ないのであれば医療費はゼロなわけで、それであれば保険料の分をなにかに有意義に使いたい
という人もいる。
 とはいえ、一寸先は闇。なにが起こるかわからない。クレジットカードの付帯保険も適用外
、無保険で高額な医療費がかかる病気やケガになったらどうすればいいのか。そんなときの最
後の砦が日本人にはある。日本の国民健康保険だ。在タイ日本大使館にもしっかりとこのこと
に関する記述がある。
『国保の被保険者が海外渡航中に病気やゲカで治療を受けたとき、条件を満たせば医療保険(
海外療養費)が適用され、支払った医療費の一部について払戻しを請求することができます
。』
「海外療養費支給制度」というものが日本にはあり、タイでかかった医療費が日本に帰国後に
一部が還付される。全額ではなく、あくまでも日本の保険制度に適用される部分が還付になる
。一旦は全額自分で清算する必要があるが、日本に帰国後、病院が発行する領収書や診療内容
明細書などを国保組合に持って行けばいい。
 詳細は各市町村で違うようなので不明だが、少なくとも短期滞在の場合は最後の手段として
この制度を利用することは可能だ。長期滞在の場合、人によっては日本の住民票を抜いてしま
うこともあろう。そういったケースでの適用か否かは要確認になる。
楽しいだけで過ごせた時期はもう終わっている
 ここまでタイ生活に関係する生命保険などについて紹介してきた。タイは日本人の移住に適
し、基本的には安全な国ではある。一方で、国が違えばすべてが違うわけで、安全とはいえ日
本とは違った危険もいろいろ。治安問題もそうだし、食事においても水と土が違うことで食材
が別物となって体調を壊すこともある。南国ゆえの高温多湿もときに負担になってしまう。
 短期滞在なら「楽しい」だけでどうにか乗り越えることができたかもしれないが、長期滞在
だと誰もが大なり小なり、病気やケガに見舞われることになる。幸いバンコクなら医療施設が
充実しているので、よほどのことがない限りは大丈夫なケースが多い。ただ、高水準な医療設
備のおかげで医療費は信じられないほど高くつく。
 この高額医療費の請求におののいて、医師の反対を押し切って無理やり退院した日本人は、
その日のうちに自宅で亡くなっていたということが、数年前、実際にバンコクで起こっている
。医師は飛行機に乗ることも危険だと警告していたようで、退院したところで行くところがな
かった。
 せっかくの楽しいタイ生活がこんな終わり方をするのは悲しすぎる。そんなことにならない
ためにも、移住の予算の中に生命保険などへの加入も考慮しておくべきだろう。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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