第1回目 タイの運転マナーの現実

タイの運転

「タイランド・エリート」でタイへの移住を考えている場合、それなりに長い期間、タイ国内に留まることになる。年に1回2回日本へ帰国するとしても、年間を通して生活のベースはタイのどこかになるはずだ。その間、普通に生活を営むだろうし、タイ国内を旅行してみる人も少なくない。そんなときに移動手段が必要になってくる。

 前回の連載でタイの公共交通機関の使い方などを紹介した。これは日本も同じだが、交通機関は時間があらかじめ決められているので、ある程度行動をそれに合わせる必要がある。それが苦にならない人、あるいは移動に時間がかかってもそういう行程が好きな人なら問題はない。ただ、自分のペースで自分の時間で移動をしたい人も少なくないのではないか。特に日常生活では時間を自由にかつ有効に使いたい。

 そんなときにおすすめなのが、自分で車を運転してしまうことだ。運転免許証さえあれば、日本人もタイで運転ができる。今回の連載ではタイで運転するときの注意点や運転免許証について、またレンタカーや自分で車を買うときの選び方などを紹介していきたい。

タイの運転免許証はこう取得する

 まず、タイで車を運転するときに必要なのは運転免許証だ。より詳しい話は連載第2回にさせてもらうが、以下の3つの方法がある。一番のおすすめは2つめの方法だ。

・国際運転免許証を日本で取得しタイで使用する

・日本の運転免許証をタイの運転免許証に切り替える

・タイで運転免許証を取得する

 出発前に日本で国際免許証を取得する方法が最も簡単。ただ、この免許は最大でも1年間しか有効期限がないので、それまでに帰国するような、たとえば1回の滞在が90日に満たない人に向く。

 おすすめの2つめは、日本の運転免許証もしくは国際運転免許証を持っていき、タイの運転免許証に切り替える方法だ。諸々条件はあるが、原則では90日以上滞在していれば切り替えができるようになる。試験は視力検査や色盲検査のみで、筆記や実技は不要で簡単。多くの在住日本人がこのようにして免許を取得している。

 最後は、日本で運転経験がない人向き。もちろん、日本の免許を持っていても切り替えではなく、タイで新規取得も可能。実技試験はそれほど難しくない。筆記はパソコンを使ったマークシート方式だ。以前は日本語もあったが、今は用意していない試験会場もあると聞いている。以前はタイは無免許運転が多かったが今はみんなちゃんと取得するため、免許センターは大混雑。筆記と実技の試験を同日に受けられなくなっている。

 とにかく、タイで有効な免許証があれば、タイ国内でも問題なく車を運転できる。

日本と共通するマナー・全然違うマナー

 タイと日本には交通法規やマナーに共通点がある。そのため、東南アジアのほかの国よりもずっと運転はしやすいと思う。

 まず、大きな共通点は、右ハンドルの左側通行であること。タイも日本と同じように英国が車社会のお手本になっているので、日本と同じ側を車が走る。これは日本人にとっては大きなアドバンテージかと思う。

 高速道路には日本のETCに相当する「イージーパス」がある。高速道路料金所横にある事務所で申し込み、課金して使用する。課金は料金所を通過するとき(その場合は専用レーンではなく、通常の料金窓口に横づけする)か、コンビニなどで支払う。ただ、日本より装置の故障が多かったり課金忘れがたくさんいて、場合によっては通常レーンの方が早い。また、首都高とモーターウェイは装置が違うので、両方を利用する場合は2つの契約が必要になる。これはちょっと面倒。

 標識も大半が日本と同じような意味合いなので、そのあたりも運転はしやすい。バンコクの場合、大通り(タノン)と小路(ソイ)で街が構成されている。基本的にバンコクのソイのほとんどは行き止まりだが、一部はほかのタノンに出ることも可能。要するに抜け道として利用できる。最近は抜け道を表示する看板もあるのでだいぶ運転しやすくなった。ただ、その抜け道案内のおかげで抜け道が渋滞するようになってきているのだが。

 問題は共通ではない部分。ここがわかっていないと、交通渋滞を引き起こしたり、周囲の車からクラクションを鳴らされてしまう。場合によっては交通違反にもなる。

 たとえば、信号は色こそ同じだが、一部の交差点だと左折は赤信号でも右から来る車に注意しながらであれば左折が可能だ。日本人居住者も多いスクムビット通りだと稀に丁字路で赤信号でも一番左の車線だけ直線可能という場所もある。不規則で、一応標識があるにはあるが、タイ語なので最初は戸惑う。また、標識が左折不可を示す場所があって全体的に統一されていない。最初のうちはクラクションを鳴らされるまで待って憶えていった方がいいかも。

 ハザードランプの使い方も全然違う。駐車中の点灯は日本と同じだが、日本のようにサンキューハザードはほとんど見かけない。タイでは駐停車以外でハザードを点けるのは直進の意思があるときだ。右に曲がるときは右折のランプ、左折は左を点けるわけだが、両方点灯は右でも左でもない、すなわち直進、というわけ。信号のない交差点などでほかの車に直進の意思を示したいときに使う。

独特のルールもあるが、運転はしやすい

 タイの運転マナーは日本よりもかなり乱暴な点は否めない。運転マナーの悪さにおののき、タイでは運転できないと思う人も多い。ただ、決まりごとがシンプルなので、日本のようにあらゆることが法で定められているよりは案外運転はしやすいと思う。

 前述のようにタイの交差点では左折が赤信号でも可能な場所がある。右から来る車に注意を払う必要があるが、本来なら同時に横断歩道を渡る歩行者にも注意しなければならない。ところが、タイは交差点に限らず車が歩行者のために止まることは少ない。

これはもはやいい悪いではなく、そういうことになっているので止まれないとも言える。ボク自身もそうだが、歩行者が車を待ってしまうのでついつい行ってしまう。それに、そこで急に止まると、今度はうしろの車にボクが突っ込まれる可能性がある。こういう環境になってしまっていてはもう止まらない方が得策なのだ。

 それから、ローカルルールも多い。たとえば、Uターンレーンに入る場合にはその数百メートル前から右端に入っていないといけないなど、法令とは関係ない、そこを頻繁に利用する人にしかわからないルールがあったりする。これはもう何度も経験しないとわからないことだ。

 バンコクではそう見かけないが、地方に行くと追い越しレーンと走行レーンに厳しい場所があったりもする。日本だったらサンデードライバーがのんびり一番右側の車線を走り続けることがあるが、タイだとそれで取り締まりに遭うこともしばしば。

 それから、自分で運転する場合に最も注意したいこと。それは、タイの道路はよく滑ること、だ。日本よりも鋪装の状態がよくない。暑い季節は生卵を落としたら一瞬で目玉焼きになるくらい熱を持つので、道路そのものが劣化しやすいのかもしれない。特に雨が降るとあっという間にスピンするくらいなので、直線であっても日本以上に注意しながら走るべきである。こういった点が日本と違うことかと思う。

 とはいえ、全般的に言えばタイでの運転は難しい話ではない。むしろ行動範囲が広がるので、運転できるようになるとよりタイ生活が楽しくなることは間違いない。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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