第3回 タイの保険事情は実は充実している
第3回 タイの保険事情は実は充実している
タイは保険商品各種に対しての政府の後押しが実は充実している。だから、移住したらできるだけ早くに、タイ国内で保険に加入することをおすすめしたい。そうすることで未来の自分の安全を確保するだけでなく、将来の資産形成のための運用にも役に立つ。今回はタイのそんな保険のメリットを紹介しておこう。
●外国人でもタイ国内で保険契約ができる
まず一番気になるところが、外国人でも保険に加入できるのかというところだろう。これは概ね「イエス」と言っておきたい。
ただし、いくつか条件がある。タイ国内の保険商品は実にバリエーション豊かだ。無数に保険のタイプがあるので、そこから自分の目的などに合うものを選んでいくことになる。このとき、約款などに記載されているのだが、商品によっては外国人の場合には保険金が支払われないという保険もある。このあたりはしっかりと勉強しておいた方がいい。
加入するべき窓口などは次回でより詳しく紹介するが、タイでは保険外交員は許可制になっているので、しっかりと保険に関する法令を勉強し、かつ各保険会社のセミナーや講習を受けてしっかりとした商品知識を身に着けていることが大前提になる。よって、外国人向けの保険商品はどれかということもしっかりと理解しているので、外交員に身を任せるのもひとつではある。
外国人向けの保険商品の中には健康診断書を添付する必要があるものがあるほか、労働許可証の提示を求められる場合もある。昨今のタイでは銀行口座開設などでも提示を求められるケースが増えている。当然、タイ国内で正規で働いている場合は問題はない。しかし、「タイランド・エリート」メンバーの場合、メンバーシップになっただけでは労働許可を得ていることにはならないので、商品によっては加入不可の場合もある。
とはいえ、どの保険会社も外国人加入の大きな条件として『観光ビザ以外のビザ』で『規定の期間の滞在実績』があればいい、とするところが大半。半年など数ヶ月ほどタイにいれば加入できるようになる。「タイランド・エリート」はまさに『観光ビザ以外のビザ』なので、長期滞在していればタイの保険会社で契約できるようになる。
●タイの保険は生命保険型と養老保険型
タイの保険商品を大雑把に分けると、生命保険型と養老保険型(年金保険型)に分けられる。中には両方の側面を持ったハイブリッド商品のような貯蓄タイプ生命保険もある。
生命保険型は保険料を支払いながら、病気やケガをした場合に利用できる。しかも、大手保険会社であれば、保険カードを見せるだけでキャッシュレスで治療を受けることができる。海外旅行傷害保険と同じような使い方ができるので、病気がちな人にはかなり便利だ。ただ、タイの保険のカバー範囲はかなりシビア。事前に約款を見ておく必要がある。保険料が安ければ1回の診療の限度額も低く、カバーされる病気やケガの範囲も狭い。保険料が高ければ範囲が広くなる。
養老保険は、一定期間、保険料を支払えば、満期時に高額のお金が入ってくる仕組みだ。タイ人向けの商品には一定期間ごとにボーナスが支払われたり、その保険カードでキャッシュレス診療もできたりする。
保険料は契約内容によって違うので具体例は挙げられないが、支払い方法は自在である点はいい。毎月の支払でもいいし、半年ごと、1年ごとという払い方がある。もちろん、支払いのスパンが長いほどやや手数料が上乗せされて保険料が高くなるのだが。
タイの保険市場は大きな規模である一方、その様子に変化が見られる。2020年においては保険加入件数がマイナス伸び率になった。これは新型コロナウィルスの関係で外出自粛が続いているため、対面販売が中心だったタイの保険業界に悪影響があったようだ。また、これまで養老保険が人気だったものの、こういった時世の中では生命保険の需要が高まりつつあるようで、コロナ禍以前の2019年から生命保険の加入率が上がってきているという。
これはタイ政府の社会保障制度が機能してきたことも要因かもしれない。まだまだ運用の行方はわからないものの、タイでは近年になって年金制度が始まっている。積み立ての期間があったので実際に支給が始まったのはここ最近の話だが、これまで老後の面倒は自分自身か家族が見るというのが当たり前だったタイでは政府の支援が受けられるようになり、生活に安心感が出てきたことで、生命保険に人気が出てきたのかもしれない。
●養老保険の支給額は契約時に確定済み
とはいえ、タイ政府の社会保障は日本ほど手厚くないのも現実だ。そのためもあって、タイ政府は民間の保険に加入し、自身の身を守るように奨励している節もある。保険外交員の免許制もそのひとつとも言える。ほかにもタイ政府はわりとしっかりと民間の保険商品をバックアップしている。
たとえば、養老型の保険商品だ。日本にも積み立て型の年金保険は存在する。ただ、運用実績によっては元本割れの可能性もあるし、少なくとも契約時には満期支払額は想定の提示であって確定ではない。そもそも保険会社そのものが消滅する可能性もある時代だ。しかし、タイでは契約時に提示される満期の金額は確定額である。必ずその額が支払われ、万が一保険会社になにかあっても、タイ政府がなんらかしらの補償をすることになっている。
養老保険型であれ生命保険型であれ、それなりの条件で加入すると、やはり保険料も高い。これに対してもタイ政府は保険加入へのメリットを与えてくれる。それは所得税の控除だ。日本でも控除が受けられるが、タイは所得税が日本よりも高い税率になる。ましてや、タイは外国人の法定賃金がかなり高く設定されているので、外国人が納める所得税は高い。そのため、保険加入での控除は節税効果がより魅力的に見えるというメリットがある。
控除には上限があり、生命保険控除は年間最大10万バーツまで、年金保険控除は年間最大20万バーツまでとなる。両方の保険に加入すれば、合わせて最大30万バーツ、すなわち年間100万円超(1バーツ≒3.5円で計算すると)の控除が受けられる。これはかなり大きい。
ただし、契約期間は10年以上のプランが対象とされ、さらに年金保険型は受給期間開始が55歳以上、終了が85歳以上のプランが対象になる。また、掛け金を支払っている期間のみが控除の対象だ。
政府保証で安全度が高く、貯蓄型生命保険も含めてタイの保険は利回りがいいと日本人在住者にはかなり評判だ。そのため、日系企業の駐在員の中には帰国までにこういった保険商品を契約する人も多い。あくまでも加入時に『タイ国内に滞在している』というステータスが必要で、満期支払い時にタイに口座があれば、身がタイになくともなんら問題がない。日本同様、中途解約が元本割れのリスクもあるので、加入したら帰国しても資産運用と思って保険料を支払っていく方が得策だ。
もちろん「タイランド・エリート」メンバーも保険を使った資産運用は利用可能だ。日本の寒い季節だけタイにいるという短期滞在を繰り返す人だと加入条件を満たすのが難しいが、タイでしっかり暮らすことを前提にしている人なら間違いなくタイ国内で保険加入をすることがベストである。
高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。