第5回「気をつけたいタイのスマホマナー」

第5回「気をつけたいタイのスマホマナー」

 タイにおいてはスマホの使い方に関して、社会的マナーの制限があまりない。電車の中でもみんな普通に通話しているし、ネット利用は当たり前だ。日本のようにがみがみと怒る人もいない。Wi-Fiも日本よりずっと自由に使えるので、日本以上に快適なスマホライフがあるかもしれない。ただ、すべての場所において自由というわけではない。そのあたりは注意しておかないと、場合によってはその場で逮捕されることにもなりかねない。ここではそんな日本とは違う、スマホのマナーを紹介しておきたい。

スーパーの店内撮影は意外と怒られる

 まず、スマホのマナーで一番気を遣うところはカメラの使い方だ。通話に関してはあまり制限はない。ただ、たとえば寺院や公共施設、役所など公的機関のエリア内で大声で電話したり、下品で不適切な会話はいけない。これはタイというよりはどこでもそうだが、いくら日本語であっても慎みたい。タイには日本語ができるタイ人も少なくないからだ。

 飲食店で食事をカメラに収めることを咎められることはほとんどない。ただ、スーパーや服飾店など小売店は撮影禁止が多い。スーパーに関しては理由がよくわからないが、店内撮影をすると店員がすっ飛んでくることがある。

 服飾店に関しては撮影禁止が圧倒的に多い。というのは、モラルの低いデザイナーがデザインを盗んでしまうからだ。タイの場合、服飾デザインに関して商標登録のようなことが可能だが、ひとつひとつ申請しなければならないので、小さなショップだとマンパワーや経費的にそれができない。そこを突いて悪徳デザイナーはデザインを盗む。だから、特に小さなショップは撮影許可を出すことがほとんどない。

 いずれにしても、本来は飲食店もそうだが、カメラを使う場合は一応許可を求めるべきだろう。外国人の場合は特に警戒されていることもあるので、嫌がる人がいるときはカメラを下げるべきだ。

 飲食店の中でも特にナイトエンターテインメント系の店はより注意が必要。バーなどで働く人の中には家族や地元の友人には隠して従事している人もいる。そのため、店内だけでなく従業員の撮影も絶対的に禁止する店がほとんどだ。隠し撮りなんてもってのほかで、警察沙汰になったり、店員から暴行されることもあるので、絶対にするべきではない。

寺院のマナーには細心の注意を

 タイは敬虔な仏教徒が多い。国民の約94%が仏教徒だ。また、次に多いイスラム教徒もそうだし、キリスト教であっても、タイ人はほかの人の宗教を軽んじることはない。そのため、宗教施設はより注意が必要になる。

 特に日本人がよく行く仏教系の寺院などは気をつけたいことがたくさんある。古都アユタヤでは世界的に有名な、木の幹に仏像の頭が埋まっているところも注意書きで仏像よりも高いところから撮影しないようにとある。この注意書きは昔からある。しかし、残念なことにそれを守れていない日本人も少なくないようで、世界文化遺産でもあるアユタヤの各所に設置された新しい注意書きは日本語表記になっていたりする。いや、日本人が多いからただ日本語が使われていると信じたい。

 スマホならびにデジカメによる撮影を禁じる寺院も少なくない。実際には大半がOKではあるが、思っている以上に禁止のところもあるということは忘れてはいけない。そういうところは必ずカメラのイラストに禁止のラインが引かれているので、それを見かけたら撮影はやめよう。

 また、涅槃像で有名なワットポーを始め、超有名な寺院の場合、タイ人の訪問客も多い。そういうところは撮影ポイントがあって、並んで順番待ちをしなければならないこともある。わりとそういうとき、タイ人は並んでいるのに外国人は無視して割り込んだりなどが結構あるので、そのあたりのマナーにも注意しておきたい。

日本人には馴染みの薄い軍事施設はより注意

 警察の活動にも注意が必要だ。日本でも警察官の公務にカメラを向けていいときといけないときがあるが、その点はタイも同じ。ただ、タイの場合、交通課の活動以外はわりと臨戦態勢でいるので絶対に挑発的な感じで動いてはいけない。

 タイは規制や管理が厳しいのでアメリカほどではないにしても銃社会だ。また、麻薬などの犯罪も少なくない。そのため、特に麻薬を取り締まる警官はいつもピリピリとしている。麻薬検問もバンコク都内の深夜に行われたりするのだが、そういったところで警察官の指示に従わずに電話したり、スマホのカメラを向けたりすると場合によっては逮捕となる。

 それから、日本人には不慣れなことの筆頭にあるのが軍事施設。軍事施設にカメラを向けることは基本的に避けた方がいい。中国のようにスパイ扱いされることはまずないけれども、機密情報などもあるのでカメラを向けたり、その近くで電話したりなど、疑わしき行動は避けた方がいい。

 ただ、軍が公開しているパレードやイベントは問題ない。むしろPRの場なのでカメラは特に歓迎される。それから、意外なのは軍関係の博物館はだいたいどこも撮影が可能だ。ドンムアン空港の旅客ターミナルから見て滑走路の向こう側に空軍博物館がある。この中は自由に撮影していいし、展示品に触るなどもOKで、日本の博物館などとは全然対応が違う。

タイ人もスマホに夢中でうっかりすることも

 とにかく、禁止されているところ、宗教施設、軍事施設、警察関係、これだけ注意しておけば、基本的には日本よりも自由にスマホを使える環境がある。ボク自身はスーパーでおもしろい商品があったのでカメラを向けたら怒られたくらいで、ほかでマナー違反となったケースはない。

 電車の中でも特に制限なく自由に使えるので、日本よりも気にする場所が少ない。ただ、同時に電車でのスマホ利用がタイ人らしさを失くしているケースもあって、これから規制される可能性もなくはないと思ったりする。

 たとえば、タイ人は電車やバスで老人や子どもに席を譲るのが当たり前。老人らが乗ってくれば、手前にいる若者が競うように立ち上がって座らせようとする。妊婦やけが人にも譲ったりと、タイ人の優しさが垣間見られる場所でもあった。しかし、今はスマホにみんな目を落としていて、そういった人たちが乗ってきたことに気がつかないということも多々ある。そういうとき、気が利く立っている人が「誰か席を立って!」なんて言ってくれて、誰かがそれに反応する。

 日本もそうだが、スマホはまだ世界的にも新しい文化というか習慣というか。だから、そういった古きよき習慣を駆逐してしまうこともあって、なにか大切なものを失くしてしまっている、なんてこともある。

 ボクの子どもの学校(タイ人向けの私立校)は、小学校高学年からスマホを学校に持ってきてもいいことになっているが、校舎に入る前に学校に預けることが前提になっている。これもそのうち隠れて持ち込む生徒も出てくるだろう。

 今現在は新型コロナウィルスでタイもリモート授業が基本になっている。その際には高学年や中学生くらいになると、授業を受けながら別の友だちとチャットをしたりなど、これまで教師が直面してこなかった新しい問題も出てきているようだ。

 スマホは便利な道具であり、かつ新しい問題をもたらす悪でもある。とにかく、自由に使えるタイではより一層マナーを守って、快適に暮らしたいものだ。次回はタイのスマホライフをより快適に感じさせるWi-Fi事情に特化して紹介する。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事