第1回「タイはWi-Fi天国でスマホ料金を抑えやすい」

 スマートフォン(以下スマホ)は当然ながら通信環境下にないと無用の長物でしかない。そのため、なんらかしらの電波が届いている範囲にいる必要がある。日本から短期旅行で行くならば、日本の携帯キャリアのSIMカードのままでも問題はない。しかし、長期滞在となれば、料金的に日本のSIMを利用することは得策ではない。

 タイで暮らす場合、自宅にWi-Fi(ワイファイ)の環境を整えることがなによりも快適な生活状態をもたらしてくれる。タイの携帯キャリアでSIMカードを入手しても、思っているほどタイの通信料は安くない。できれば定額で利用できるWi-Fi環境を整えることをおすすめする。今回の連載ではそんなタイのWi-Fiについて見ていくことにしよう。

スマホ料金を安くするならWi-Fiを活用しよう

 念のためWi-Fiについて説明しておくと、インターネットに接続するための電波であると理解していればいい。

以前は自宅のパソコンなどはLANケーブルと呼ばれるコードをモデムという装置を介して端末と電話回線に繋げていたが、その後電波で接続できる無線LANが登場している。無線LANには赤外線など様々なタイプがあり、場合によっては他社製品とは互換性のないものもあった。

そして現在、多くの家庭やオフィスなどではモデムとパソコンを繋ぐのではなく、モデムとルーターと呼ばれる装置を繋ぐ。このルーターを使うことでWi-Fiが利用でき、スマホやパソコンなどWi-Fiが利用できる機器すべてに互換性もあるため、特別な設定をしなくても利用できる。さらに、有線LANは1台のパソコンしか接続できないことがほとんどだったが、ルーターでは複数台の端末が同時にネットを利用できる。

 タイでスマホを利用する場合、最も適しているのがタイの携帯キャリアのSIMカードを使うことだ。しかし、端末価格も通信費用も、たぶんみなさんが思っているほど安くない。タイはなんでもかんでも物価が安かった時代は昔のことで、それなりの生活環境を確保するにはそれなりの費用がかかる。

 ということは、スマホを普通に利用すると、月々それなりにお金がかかってくる。そこで、その通信料を安く抑える方法のひとつがWi-Fiというわけだ。自宅にWi-Fiを設置する場合、電話会社と契約する必要があるので、そこでも月々お金がかかる。しかし、外出先の飲食店などに設置されているWi-Fiを利用すれば、自身の携帯キャリアの通信料、同時に契約時に制限設定されている通信量に負担がかからない。つまり、無料でネット接続できるのである。

 タイはこのWi-Fiの環境が非常に優れている。街中を歩いていると、どこでもほぼ自由に利用できる印象を受けるほどのレベルだ。旅行くらいの期間だったら日本のSIMを入れたままでもなんら問題がないくらいである。

日本人が知らない日本の無料Wi-Fi環境の劣悪さ

 日本に住んでいると基本的に日本のSIMを入れているので知る由もないことだが、海外に暮らし、現地のSIMカードを利用している人にとっては日本は非常に不便である。

というのは、フリーのWi-Fiがほとんどないに等しい。2016年くらいから徐々に公共のWi-Fiが増えてきており、東京内なら半分くらいの区で無料公衆Wi-Fiを設置している。ただ、利用できるのは主要なエリアだけで、どこでも利用できるわけではない。鉄道各社なども無料Wi-Fiのスポットを作ったりもしているが、いずれも電波はあまり強くない。

 民間のWi-Fiもまたあまりよろしくないのが現状だ。チェーン店によっては事前にネットから登録しないとWi-Fiに接続できない。落語だとかトンチの世界のような話で、そのネットで登録するためのWi-Fi接続はどうするのか、と海外SIMを持っている人は頭を抱えてしまう。ちなみに、先の23区のWi-Fiも、区によっては事前にアプリをダウンロードしないと使えないケースもあるようだ。

東京などにあるチェーン・レストランは店内の至るところに無料Wi-Fiがあることを謳っていた。登録も不要で、接続パスワードを打ち込むだけだという。タイなどの飲食店と同じようなサービスがついに始まったかと感動したものだ。ところが、その店のすべての店員、もちろん店長を含めて、誰ひとりパスワードを把握していなかった。外国人が来るような店ではないし、一般の日本人には不要だから聞かれたこともなければ、従業員自身もWi-Fiの存在を忘れていたのでしょう。

 このように日本では日本のSIMがないとあっという間にネット難民になる。空港には外国人向けのデータSIM(普通の電話ができないSIM)もあるが、ちょっと高い。そもそも、使用期限が微妙。たとえば「タイランド・エリート」でタイを拠点に生活をする人の中には、冬だけタイで過ごし、あとの季節は日本で、という人もいるだろう。そうなると、せいぜい30日程度の使用期限では、のちに課金することで延命できるにしても、割高になってしまう。日本人なら容易にキャリアと契約できるが、外国人には不便極まりない。

 これと比較すると、タイは天国かと思うくらいWi-Fiが自由だ。今後、日本も外国からの観光客をより多く受け入れなければ経済的発展が厳しいと考えると、この点は早急に解決するべき問題だ。

タイのWi-Fiがどれくらい便利かというと……

 まず、飲食店。屋台やちょっとした食堂以外ではほぼどこにでもWi-Fiがあると思っていい。日本と同じように、世界規模のチェーン店は事前登録が必須だったりする。また、大きな規模のチェーン店も無料Wi-Fiがないケースはよく見られる。

 一方、個人経営やそれほど規模の大きくない飲食店なら大概Wi-Fiがある。お洒落な喫茶店は絶対にあると言っても過言ではなく、むしろ積極的に利用してもらってSNSなどで画像を拡散してほしいという戦略でWi-Fiを置いている。

ただ、スマホを開いたらすぐに接続できるというわけではなく、だいたいどこの店もパスワードを設定している。メニューにパスワードが書いてあるか、テーブルや壁にアクセスポイント名とパスワードが記されている。もしこれらになかったら、店員に聞けば教えてもらえる。飲食店だけでなく無料Wi-Fiを設置しているところのほとんどがそうなのだが、パスワードは基本的に変更しないので、スマホに履歴が残っていれば、再び行ったときにすぐに繋げられる。

 デパートなどの商業施設はタイのキャリアSIMを持っているとキャリア各社の無料Wi-Fiが使える。事前登録が必要な場合があったり、専用アプリを事前に用意していないと使えなかったり、あまり便利ではない。そもそも通信速度も遅いので、キャリアSIMがあるなら通常接続した方がいい。

 タイにもデパートや駅、自治体や国の施設、観光スポットなどに政府が運営する無料Wi-Fiがある。『Free Public WiFi』というサービスで、使用時にネットで登録しなければならない。スポット圏内に入るとアクセスポイント「ICT_Free_WiFi」に接続でき、最初の利用時には登録画面が出てくる。前述の日本の飲食店とは違い、「どこかで登録してから来てください」というスタンスとは大違い。ただ、登録画面は英語しかなく、名前やパスポート番号、住所に電話番号、メールアドレスなどを入力するのは難しいと感じる人もいるかもしれない。登録が終われば60日後まで利用できる。ただし、1回の利用は2時間までだ。

 同様の公共Wi-Fiは空港にもある。地方空港は定かではないが、少なくともスワナプーム国際空港とドンムアン国際空港にはある。Free Public WiFi同様に通信速度は期待できないものの、ないよりはマシ。この空港無料Wi-Fiが今、どういった運用になっているかはわからない。なぜなら変更が多く、サービスが停止していることもあれば、そのまま利用できることもあるし、事前登録が必要な時期、空港内インフォメーションカウンターでパスワードをもらうなど行くたびにやり方が違っていたため、現在のことは正直なんとも言えない。

 いずれにしても、タイはWi-Fiがどこにでもあるので、スマホの通信料を抑えながらネット利用できることに関しては日本よりも優れていると思う。

筆者紹介

高田胤臣(たかだたねおみ)1977年東京都出身。1998年に初訪タイ、2000年に1年間のタイ語留学を経て2002年からタイ在住。2006年にタイ人女性と結婚。妻・子どもたちは日本語ができないため、家庭内言語はタイ語。
現地採用としてバンコクで働き、2011年からライター専業になる。『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)など書籍、電子書籍を多数出版。書籍、雑誌、ニュースサイトなどに東南アジア関連の記事を寄稿中。

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